短編小説

□理解不能
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 おしえて。


〈白〉


 校内でただ一人、制服ではなく白いワンピースに身を包んだ少女は、可愛らしく首を傾げていた。
そんな少々場違いな、浮いていると言っていい少女の目の前には、こちらもあまりに場違いに、唐突に金槌があった。

 彼女は不思議そうにそれをみつめ、もう一度首を傾げた後、何気なく。
本当に何気なくといった様子で、金槌を上から下に振り下ろした。


 ……たった、それだけ。


 言ってしまえば、たったそれだけの行為で、彼女は殺人鬼と認識されたのだった。かねてよりの特異性も相まって、きっかけさえあれば、畏怖される事はこんなにも容易い。


 ──いや、それで充分だった。


 少女が凶器を振り下ろした先には、一人の少女がいたのだから。


 突然躊躇いなく奮われた暴力に、周りの人間は一斉に悲鳴をあげ、逃げ惑う。日常は一瞬で瓦解し、そこはもう、彼らの知っている場所ではなかった。
凶行を受けた少女を庇うように一人の少女が寄り添い、それ以外は皆一様に、その場から離れることで非日常から逃れようと足掻いていた。


 ──何故だろう。自分は何をしたんだろう。


 これは振り下ろしてはいけない物なのか、何故皆逃げていくのか、どうしてあの少女は泣いているのか、何故そんなに怯えた目で自分を見るのか。


 血まみれで泣きじゃくる少女を隣で支える少女は、畏怖でも恐怖でもなく、ただわけがわからない、といった表情で、未だ表情の変わらぬ白い少女をみつめ続ける。


 自分は、いけないことをしたのだろうか?


 白い少女が問い掛けたくて動いたところを、いつの間に集まったのか数人の教師が押さえ込む。
教師は何か叫んでいたが、少女には何を言っているのかわからなかった。
そのままジタバタしていると、もう誰もいない。


 待って。わからないの。
 離して。いかなくちゃ。



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