短編小説

□執行猶予
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「それにしても、最近の女性は強いね。この間泣いていたかと思ったら」

「え、無理してるという可能性は無視ですか」

「だって君がふったんだろう?」


 ──痛いところを突いてくる男だ、本当に。


 確かにそうだけれど、情けないけど、まだ何処かが痛かったりするのだ。引きずっていたりするのだ。
ああそうさ本気だったんだ私は。未練がましくて悪かったですね!


 『さよなら』だなんてお約束な台詞で、おしまい。それでおしまい。
なんてあっけない終わり方。たった一言で、夢のような日々はもう戻らない。

 でも、さめるから、夢なんでしょう。

 ただ私は、中途半端な関係が嫌だった。そのまま夢を見続けていられるほど強くなかった。いっそ潔く首をはねてくれと思った。だから、自分でギロチンを落とした。

 つまり私は自分で自分を死刑にして、痛がっているのだ。本当に、嫌になる。この男がそれを見透かしているのも居心地が悪い。
こちらの心中を知ってか知らずか、男は軽快に話し掛けてくる。


「こうしていると、なんだか恋人同士のようじゃないかい」

「はあ、勘違いですよね」

「あ、順番間違えた、よし、次に君が笑ったらデートしよう」

「なんでそうなるんですか! まだ順番間違えてますよっ!」


 思わず大声をだすが、目の前の男は、楽しそうに笑っている。ああ、なんだかもう、おかしい。おかしすぎる。
変な人。本当に、変な人だ。笑ってしまう。

 私が堪え切れずに笑いだせば、やっと笑ったね。と、また用意されたような台詞で極上の笑顔。目を少し細めて、眩しそうに笑む。小娘ならとっくにまいっているだろう。
しかし残念ながら、私は素直に傾けるほど子供ではないのだ。本当に大人って面倒くさい。


「さて、笑ったところで、デートはいつにしようか」


 ……この男は私のことを、お人形か何かだと思っていやしないか。
冗談を言うのも、気のあるそぶりも、全て私を笑わせる為。わかってる。だからいつまでもおままごと。これから先はない。


 ずき。


 ……なんで、こんな事で、痛いんだろう。


 笑顔がいたい。
 馬鹿みたいだけど、痛い。一体このいたみはどこからくるのか。
だいたい私は、間違っている。嫌なら、ここになんて来なければいいのだ。
なのに毎回飽きもせず、暇があればここに来ているなんて、まるで期待してるみたいじゃないか。


 笑顔がみたいとか。
 声がききたいとか。
 距離がもどかしいとか。


 こういうの、なんていうの?
 こんなの、まるで少女の恋じゃないか。
こんなの、錯覚だ。私は何か勘違いをしているのだ。


 ──だけど私はどうして、泣かなくなった?


 何度も何度も、繰り返し与えられる笑顔があったから。そうだ、本当は私は、気づいている。

 この胸の痛みが勘違いなら、勘違いが恋なんだ。
思い込んで、なりきって、貫き通したなら最強。



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