短編小説
□行方不明
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もういいかい。
まあだだよ。
それは遠い昔の、ありふれた遊び。日が暮れたら終わる、ただの遊び。
■
どこまでも続く広大な大地を、少年は一人歩き続けていた。痛む両足をずりずりと引き摺るようにして、ただ歩き続けていた。
踏みしめる大地は白く乾き、乾いた風が砂塵を巻き上げていく。瓦礫すら無い、その荒涼とした世界の真ん中で、少年は途方に暮れていた。
誰ともすれ違わない。それどころか、一体なんだというのか、この状況は。苛立ちにも似た感情が沸き上がり、少年の胸を焦がした。
自分の記憶では、砂漠など近場にはなかったはずであるのに。今は、人の姿はおろか、見慣れた街並みも、建物や店の気配も、およそ人の営みというあらゆるものがまったく感じられない。気が狂いそうだ。
少年はよろめきながら、頼りなく揺らめいている記憶をゆっくりと手繰り寄せる。
光。
突如視界を襲った目の眩む光と、恐らく轟音による無音。そして無光。思い出せたのは、それだけである。何の役にもたちそうにない。
──自分は、どこか知らない場所へ飛ばされ、迷子にでもなっているのだろうか。
馬鹿馬鹿しい想像に何かが込み上げてきて、少年は可笑しくもないのに低く笑った。しばらく笑い続けた。笑い合う相手がいない事が、ただ寂しかった。
この年になって迷子とは。滑稽で惨めで、心細さはあの頃のままで、泣きたいけれどその気になれない。
とにかく早く、誰かに会いたい。その一心で、少年はただ歩く。かくれんぼの自覚がないまま、一人、鬼のところへ。もういいよ、もういいよ、僕はここだよと、何度も何度も呟きながら。
────誰か、早く見つけて。
虚ろな思考で少年が願うのは、ただただ、夕暮れ時の解散だった。
しかし祈りは届かない。
届く先がない。
鬼は誰。
君が鬼。
誰もみつけてくれないよ。
だって誰もいないから。
だって君が鬼だから。
君が最後の一人の置いてきぼり。
行方不明
(100数えるのに飽きたらこっちにおいで)
END.
→あとがき。