短編小説

□確認無用
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「お前、怖くないのか?」


 ──いや、怖さの原因を作っている人間にそんなこと言われてもな。
ぼんやり思いつつ、私は視線だけ相手の男に向ける。情けない顔しちゃってまあ。大丈夫なのか? こいつ。ああ、なんかもう本当に面倒くさいかも。
げんなりしながら、私はため息をつきたい衝動をぐっと堪えた。


 何故このような状況になっているかといえば、ある馬鹿な男が誘拐を企てたからで。
このような状況というのはどういう状況かといえば、私はその馬鹿な男の、いわゆる人質になっているわけで。

 あーあ、帰りたい。


 ……でもまあ、この状況はむしろ願ったり叶ったりなのだ。男が誘拐しようとしていたのは、まだ乳離れも済んでいない赤ん坊で、それを阻止した結果なのだから。
別に私は正義の味方でもなんでもないんだけれど、自分より弱い存在をどうこうしようという輩はやっぱりいけすかない。うーん、結構な善人だったんだな私ってば。


 ……などと、すっかり男を無視し一人考えを巡らせ沈黙したままでいたら、男は勝手に何かを察したらしく、「そうか」と呟きそれきり黙った。少し安心した様子が見て取れる。


 助かるね、理解が早くて。
 というか、見当違いで。


 私に人質としての価値があるかどうかは甚だ疑問なんだけれどね。
不本意だけれど、冷静に考えればそうなるのだ。でもそんなことは、わざわざ教えてなんかやらない。何されるかわかんないし。

 何しろ私は、ある人物を牽制する為に人質にされたのだから。とりあえずは、無事でないと意味がないだろう。余計な事を吹き込んで気を変えられたらたまらない。
しかしこの男、私を人質にとるということは牽制だけでなく挑発にもなる、ということを理解しているのだろうか。してないんだろうな。


 ……まあ何にせよ、男が警戒しているそいつこそ、今回の誘拐を阻止した、いや阻止している人物だ。
というか、うん、そいつは今、私より赤ん坊を優先しているということで。

 うん、ちょっと腹が立つのは事実だが、当然だ。
これで中途半端にどっちも守ろうとして赤ん坊を拐われでもしてみろ、誰よりも先に私が全力で殴り倒してやるわ。しばらく立ち上がれると思うなよ。



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