短編小説
□矛盾衝動
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うちの家族は、仲がいい。
人の好い父親に、少し口うるさい母親、そして平凡な僕。両親と、僕と、家族3人、いつも笑いあって暮らしていた。
だけど僕は知っている。 最近の母親が、母ではなく女の顔をしていることを。そしてその顔は、父親に向けられてはいないことを。出掛ける母を、自分が鬼のような形相で黙視していることも。
僕は狂っているのだ。
嫌悪や侮蔑があっても、母には何も言えず。日に日に自分と距離をおき嫌悪していく母に逆らうこともできず。なのに自分でも驚くほどの、どす黒い悪意を孕んでいるのだから。
神様、僕を助けて下さい。
僕は狂っているのです。
人間ではありません。
僕を罰して下さい。
僕を助けて下さい。
こんなに苦しいのは、気持ちが悪いのは、僕が狂っているからでしょう?
──────そうだね。
『そうだね。あなたのそれは………………だからでしょう?』
そのたった一言で、妄想は霧散した。
ああ、ああそうか。僕は。僕は。
病気なのだ。
悪意は堕胎し陣痛は止む。異常は狂気ではなく執着。正体のない狂気ではなく、形ある凶器。
何でもないことのようにあっさりと僕を救った目の前の人を、守りたいと、ただ大切にしたいと、そう思った。
いつもいつも。
どんなときも。
大切に大切に。
ドロドロに。
甘やかして。
守って。
守って。
守って。
『あなたは……………なんでしょう?』
……──ああ、神様。
何故ですか。
壊したかったんじゃない。
守りたかったんだ。
END.
→あとがき。