短編小説

□自己嫌悪
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 暴くのは愚かですか。
 断罪は無意味ですか。




 突然で申し訳ありませんが、きいて下さい。
私はこの手で罪人を捕まえたのです。まごう事なき罪人です。逃がすまいと、捕らえたのです。

 それは咄嗟にとった行動でしたが、相手の手をとった瞬間、私は奇妙な感覚に襲われたのでした。


 ……私の、手です。


 その手が私の手なのです。
 私の手が、私の手を捕らえていたのです。私が、私を許しがたい罪人として捕まえたのです。


 その感覚は、まるで自分の腹に手を入れ、自ら臓物を引き出し観賞しているような……。
そんな、およそ快楽とは言い難い気持ち悪さだけが押し寄せる感覚で、私は自らの手で内蔵を掻き混ぜられたような生暖かい恐怖に粟立ち、ただひたすら嫌悪し、立ち尽くしておりました。


 今もくらつく頭で必死に考えてみても、何が起きたのか、理解できません。


 ……あの手を、掴むべきではなかったのでしょうか。私が罰しようとした私の罪とは、一体何なのでしょうか。


 理解できません。
 したくもありません。

 いいえ、忘れました。
 なんの事だか、わかりません。


 思い出すだけで、暗い触感に、脳が心臓が全身が底冷えします。


『ああ、自分はもう二度と自信というものを持てないのではないだろうか』


 という絶望が押し寄せ、震えが止まらないのです。


 何故って。


 ──捕まった私は、捕まえた私を、冷えた眼球で嗤っていたのですから。



END.
→あとがき。

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