短編小説

□専用禁忌
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 いやに威圧感を纏った男の前に、萎縮した男が二人立っていた。二人の男はそれぞれ、足元に何故か棺を携えている。


「ここにきて、お前の方が成果があがったか」


 威圧感を纏った男は、男の一人、右の人間に話し掛けた。話し掛けたというよりは、ただ言葉を放っただけだったが、全身を堅く強ばらせていた右の男は、少し嬉しそうに表情を崩す。
棺の中に入っているものは、どうやら人の形をしているようで。……少なくとも、外身は人間の片鱗を保っていた。


「両者とも、引き続き、更なる成果を期待する」


 声をかけられなかった左の男の顔は、苦渋に満ちていた。
もう嫌だったのだ。実験を繰り返し、人を弄び、命を蹂躙するのは。だから、あえて何の成果も見せなかったというのに。


「……では」


 ああ、嫌だ。嫌だ。
 最悪に嫌な瞬間がやってくる。


「切断だ」


 ……何を、など。愚問で。

 なんの情も感じられない声の命ずるままに、人の形をしたそれは。禁忌の結果は、今日もまた廃棄される。
それは、今まで何度も目の前で繰り返されてきた惨劇。


 逃げたい。
 逃げたい。
 逃げたい。

 許してくれ。
 許してくれ。
 許してくれ。


『     』


 ……そうしていつも、自分が逃避を考える度に、『声』はきこえてくるのだ。それは隣の男もどうやら同じようで。


『私のことはいいから、あなたは逃げて』


 ……逃げられる、わけがない。


 そうしてまた禁忌を犯す。禁忌と知りながら。禁忌と理解していても。


 逃げられない。


 そんなことは、とっくにわかっていたけれど。

 せめて「切断」の音からだけでも逃れるように、二人の男は耳を塞ぐ。目を閉じる。心を殺す。世界を裏切る。


 これは禁忌。
 これが禁忌。


 俺達用の、禁忌。



END.
→あとがき。

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