記念部屋

□木漏れ日の中で
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 ふわふわと漂う光。
 ゆるゆると揺らめく空気。
 困ったように佇む気配。


「一緒にくるかい?」


 ──同情とか、共感とか、そんなんじゃあないけれど。差し伸べた手を恐る恐る掴んできたあたたかさにハッとして、救われたのは自分の方だったかもしれない。




 もうもうと埃が舞う。崩れ落ちた書物が所在なさげに散らばり、何かもう、やるせない。
 やはり下手に掃除などするものじゃないな。思いながら、黒髪の青年は小さくため息をついた。探し物は見つかったものの、部屋の惨状に乾いた笑いが込み上げてくる。ははは、誰に八つ当たりしようかなあ。

 物騒な笑顔を浮かべつつ、代償を払って探し当てた手紙の封を切り、目を通す。
 読み終えた後、手紙は音もなく炎をあげて燃え尽きた。内容は、いつもの王宮からの勧誘だ。くそ、探す必要なかったな。


「もう、戻るつもりなんてさらさら無いよ」


 その顔に少しだけ憂いを浮かべながら、青年は誰にともなくひとりごち、それからハッと我に返った。


「……ソララは何処だ?」


 探し物に夢中になっている間に、いるはずの妹の姿を見失い、青年は困惑した。オロオロと右往左往し、落ちた本に躓く。間抜けすぎる。さらに雪崩が起きるのもおかまいなしで、青年は必死に視線を燻らせ少女を探した。


「!」


 ひぃ、と音にならない悲鳴があがる。窓の外、然り気無く背の高い木の頂上に幼い探し人を視認して、真っ青になった青年は、とにかく早く動こうとジタジタもがいた。しかし大量の書物に埋もれ、身動きがとれない。やはり普段から掃除はしておくべきだ!

 そうこうしているうちに、危うい妹のバランスが視界の端でふと崩れかける。「ソララ!」切羽詰まったように叫ぶ青年。


 ──ぽふ。

 数瞬後、やはり落下してしまった少女は、しかし傷一つなく何か柔らかいものの上に着地した。幼い瞳を不思議そうにパチパチさせ、「……キオ?」と可愛らしい声で呟く。


「無事か、ソララ」


 答えながら安堵の息を吐くのは、キオと呼ばれた少女の兄。しかし姿は先刻までの黒髪の青年ではなく、黄色いふわふわの毛皮を纏った丸い獣のものだった。
 そのあまりに愛らしい姿に少女は歓声をあげ、撫でたり抱きついたりと忙しい。木から落ちた恐怖は忘れているようだ。
 すごーいすごーいと喜ぶ少女の方が余程可愛らしい、と青年は微笑ましく思い、しばらくなすがままにされることにした。

 ……怒るタイミングを完全に外したな。

 見上げた青空は、どこまでも澄んでいた。



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