記念部屋

□今宵正義は潰えるらしい
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「単位が足りねえ」

「知らないよ」


 友人の唐突なカミングアウトをテンポよく一蹴し、本に目線を落とす。
 読書中が、心安らぐ数少ない時間かもしれない。幸せだ。


「単位が足りねえって言ってんだろーが!」

「だから、知らないって。俺は足りてる。なんなら余ってる」


 いきなり暴れだす理不尽な友人を、今度も軽く受け流してみる。
 期末試験も無事に終了し、長期休暇を待つばかり。正直、単位の話をされても今さらという感じだ。よく今まで気づかずにいられたよ、むしろ。


「余ってる分寄越せ! てめーそれでも友達か冷てーな! がっかりだ! がっかりだよ!」

「こっちががっかりだよ。まさか友達が留年するなんて。恥ずかしいよ」

「全然恥ずかしくねーよ、もっと自信をもて! それと、まだ留年してねえ!」

「まだって」


 思わず素でつっこんでしまう。普段から言うことが滅茶苦茶で破天荒な友人でも、どうやら留年はわりと避けたいものらしい。
 変に納得している一瞬の隙を突かれ、本を奪われてしまった。どうやら、話をきくしかなさそうだ。


「まあ、追試くらいはしてくれるだろうから、大丈夫なんじゃないか」

「いや、追試の必要はない。未提出の課題があってな、それをクリアすればいいんだ」

「なら頑張れば」


 今の時期に未提出な課題があるなら、そりゃあ単位も足りなくなるだろう。
 義務教育ではないのだから、やる気の無い者は放置。それがこの学院の基本スタイルなのだ。

 しかし、友人の科の課題は実技が主。普段は不真面目でも試験や課題だけはなんなくクリアする、真面目な生徒からすれば、ちょっと腑に落ちないあいつマジ反則、というのがこの友人だというのに、どうしたことだろう。


「その課題、正のコアをとってこいってやつなんだよ」


 ……なるほど、それでこの友人は俺のところに来たのか。

 コアとは、魔物の体内に存在する核のことだ。
 通常、一体が一つ以上所有していて、それがその魔物の属性を決めている。

 すなわち、その魔物が生であるか、邪であるか。

 コアは一つ一つが独自に正邪を選ぶ。例えば、核を三つ所有している魔物のコア二つが邪を選べば、その魔物の属性は邪ということになるのだ。安易で乱暴な多数決だが。

 一般的には正のコアの方が貴重とされていて、そのコアを入手するには、魔物を魔術で倒す必要がある。
 体内に存在する核を、魔術でもって、コアという球体として体外に表さなければならない。いくら剣で斬りつけ、例え絶命させたとしても、コアそのものは手に入らないのだ。

 友人は、決して弱いわけではない。単純な戦闘力なら、俺より遥かに強い。むしろ、こいつに勝てるやつもそうはいない。さすがは戦術科といったところか。
 しかしいかんせん、魔術方面はからっきしなのだ。いくら戦術科といえども、魔術の授業はあるはずなのだが。
 力業ではどうにもならないこの課題は、友人とは相性が悪いだろう。



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