記念部屋
□首吊りコメディ
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「なんだお前、また来たのか」
来訪者を確認した人物は、そんな台詞と共に、慣れた様子で眉間に皺を寄せた。端正な顔を歪め、ため息など一つ。
森に居を構える、オーディンの子ヴィーザルその人は、客人を招き入れることをせず室内へ引き返すのだった。
「そんなこと言わないで帰ろうよ、ヴィーザルおじさん」
来訪者は、まだまだ幼い印象の残るオーディンの孫、つまりはヴィーザルの甥、ウルである。
この甥っ子は、ヴィーザルがオーディンと仲違いして、大人げなくも家出をしてから、こうしてやってきては説得を繰り返していた。どちらが叔父だか理解に苦しむところである。
「俺は帰らん。あの馬鹿親父には愛想がつきた」
「しょうがないよ、オーディンじいちゃんだもん。おじさんが譲歩してあげなくちゃ」
実はまったくフォローになっていないあたり、ウルにしても、オーディンの味方というわけではないらしい。
どれだけ人望が無いんだあの男は、と、現在仲違い中の父親を思い、わけのわからない感情に包まれるヴィーザルだった。
反抗心と意地で出てきた状況ではあるが、やはり譲る気は毛頭ない。しかし、人嫌いで気難しい叔父を慕ってくる人懐こい甥っ子を無下にも出来ない。
なので毎回毎回、叔父と甥のコミュニケーションは平行線のまま幕を閉じるのが通例となっていた。
「でもね、じいちゃんも反省してるんだよ」
「うそつけ」
「本当だって。この間なんか泣いてたし」
「はあ?」
意外な言葉を聞き、つい猜疑心にかられてしまう。あの男が泣くなどと、そんな人並みの感性を持っていたことにも驚きだが、一体どんな状況でそんなことになるのか。
「……夫婦喧嘩でもしたんだろ」
「いやー、じいちゃんは夫婦喧嘩しても、泣くよりヒステリー起こして復讐するよ」
「ウル、もしかしてあいつが嫌いか」
「そんなことないと思うけど。ただしょうがない人だなあって」
「…………」
参った。何故だか甥っ子相手に敗北感を味わい、ヴィーザルは押し黙ってしまう。
自分はそんな風に思えなかったから、家出をしたわけで。父親にしても、人に譲るということなどしない。
つまり客観的に見ると、あの父親と自分は似た者同士ということか。なんたることだ。体中の血を入れ換えたい。