記念部屋

□終わり始まり喰らうもの
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 あなたは世界を救いたい?
 それとも世界に復讐したい?
 この世界で誰かと生きていきたい?




 彼または彼女は、伏し目がちな瞳をすっと上げると、静かに問いかけた。
 その水をうった様な静謐が映すのは、過去か未来かそれとも真実か。
 問われた彼は、ゆっくりと唇を開けて……。




 バチバチと、小さな火花が辺りを舞う。その儚い輝きは、天に昇り星となる。
 大地はユミルの体で創られており、世界樹ユグドラシルが中心に在る。


 ここは神々の棲む世界。


 人々がまだ信仰を棄てず、神を自然を恐れ敬い、時には交流することさえした、神性が確かに存在した時代。
 時に埋もれ、流れに削られ、共に擦りきれ、忘れ去られていく歴史の物語。


 彼は、彼女は、そのすべてを知っている。


 ──覚えている。遠くへ霞んでいく、そのすべてを。
『わたし』は、『   』よ、すべてを知っている。


 訊きたいならば、語りましょう。『あなた』は、『わたし』に、それを語ることを望んでいる。そうして、わたしを試そうとしている。

 知りたいならば、語りましょう。世界が一度滅びてなお在り続ける、その樹の記憶する歴史を。遠い未来の物語を。


 そなたらは知っているか。
 ──覚えているか。

 それともいかに?




 ──あなたは救いを望みますか?


 中立者よ。あなたは今、三つの未来(あした)を選ぶことができます。
 後悔しない明日(みらい)を選びなさい。


 『運命』は、『存在』は、『必然』は、語る。ただただそのままを。在るがままを。

 選ぶのは『彼』であるから。
 望むのは『彼』であるから。



 ──そして、彼は選んだ。


 それはまた、別の物語。

 彼が選び、彼が望み、彼が掴んだ、ロキという彼(かみ)の物語。




 ──『その時』、世界は炎に包まれていた。それは、すべてを焼き尽くす劫火。終末の炎。神の意志に逆らうという、確かな意志を持った、熱。


 黄昏は、避けられない。

 彼は、わらっていた。嘲るでもなく、愉悦するでもなく、ただ僅かに口端を吊り上げて。


『──知りたい?』



 彼は何を語ったか。
 彼は何を望んだか。
 彼は何を憎んだか。
 彼は何を愛したか。


 そう、それは、神のみぞ知る。


 彼または彼女は、語るだけ。
 傍観した記録を、語るだけ。



 ……彼は不敵に佇みながら、『その時』始めにこう言った。


 ────さあ。

『終わりを、始めようか』





(そして黄昏は訪れる)



END.
→あとがき。

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