記念部屋
□終わり始まり喰らうもの
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あなたは世界を救いたい?
それとも世界に復讐したい?
この世界で誰かと生きていきたい?
■
彼または彼女は、伏し目がちな瞳をすっと上げると、静かに問いかけた。
その水をうった様な静謐が映すのは、過去か未来かそれとも真実か。
問われた彼は、ゆっくりと唇を開けて……。
■
バチバチと、小さな火花が辺りを舞う。その儚い輝きは、天に昇り星となる。
大地はユミルの体で創られており、世界樹ユグドラシルが中心に在る。
ここは神々の棲む世界。
人々がまだ信仰を棄てず、神を自然を恐れ敬い、時には交流することさえした、神性が確かに存在した時代。
時に埋もれ、流れに削られ、共に擦りきれ、忘れ去られていく歴史の物語。
彼は、彼女は、そのすべてを知っている。
──覚えている。遠くへ霞んでいく、そのすべてを。
『わたし』は、『 』よ、すべてを知っている。
訊きたいならば、語りましょう。『あなた』は、『わたし』に、それを語ることを望んでいる。そうして、わたしを試そうとしている。
知りたいならば、語りましょう。世界が一度滅びてなお在り続ける、その樹の記憶する歴史を。遠い未来の物語を。
そなたらは知っているか。
──覚えているか。
それともいかに?
■
──あなたは救いを望みますか?
中立者よ。あなたは今、三つの未来(あした)を選ぶことができます。
後悔しない明日(みらい)を選びなさい。
『運命』は、『存在』は、『必然』は、語る。ただただそのままを。在るがままを。
選ぶのは『彼』であるから。
望むのは『彼』であるから。
──そして、彼は選んだ。
それはまた、別の物語。
彼が選び、彼が望み、彼が掴んだ、ロキという彼(かみ)の物語。
■
──『その時』、世界は炎に包まれていた。それは、すべてを焼き尽くす劫火。終末の炎。神の意志に逆らうという、確かな意志を持った、熱。
黄昏は、避けられない。
彼は、わらっていた。嘲るでもなく、愉悦するでもなく、ただ僅かに口端を吊り上げて。
『──知りたい?』
彼は何を語ったか。
彼は何を望んだか。
彼は何を憎んだか。
彼は何を愛したか。
そう、それは、神のみぞ知る。
彼または彼女は、語るだけ。
傍観した記録を、語るだけ。
……彼は不敵に佇みながら、『その時』始めにこう言った。
────さあ。
『終わりを、始めようか』
終わり始まり喰らうもの
(そして黄昏は訪れる)
END.
→あとがき。