記念部屋

□罪状コレクター
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「追い詰めたぞ。ここで会ったが百年目ッ!」


 うわ、それなんて死亡フラグ?


 思いはしたものの、オレは優しいから言葉には出さないでやる。
しかし表情が心中を表わしてしまうのは仕方の無いことだろう。見逃してくれ。
まったく、つまらない事になったもんだ。

 言葉の主は、そんなこちらの複雑かつどうでもいい胸中など気にもかけず、全力で殺気を放っている。
いや、殺気は殺気なのだが、なんだその、さり気ないどころか全力で震えている足が色々なものを台無しにしている。
ほら、場の空気とかさ。


「盗人め。今度こそ投獄してやるから覚悟しろ!」

「投獄ならされたけど」


 とっくに。何度も。
 今だって、脱獄したばかりだからね。


 流れるように返した俺の言に、相手は言葉をつまらせる。
心なしか全身が震えてきたようだ。多分だけど、悔しかったんだろうな。
まあこれも仕方ない。新米にしては、オレ相手に頑張っている方だろう。頑張っているだけだが。

 ちらりと目線を投げれば、わかりやすく跳ねる肩。
おいおい、オレは鬼か。化け物か。そうあからさまに怯えられると複雑だ。
まあ、華奢な体躯や長い髪はなかなか悪くないし、性格も好みだけどね、気が強そうで。ちょっと突けば崩れそうで。
このまま崩れてくれたら化け物よろしく襲うことも考えないでもない。

 だがそこは相手も天下の国家公務員、すぐに気を取り直し、怒声をあげてきた。残念。


「いいか、お前が盗んだものはなあッ」

「あなたの心です?」

「違うわー――――ッ!」


 おお、なんて絶妙のタイミング。さてはプロだな。いや、なんのプロだか知らないが。
しかし息を切らしてまで否定されるとなんだか少々不愉快だ。よく見ると、うっすら涙まで滲んでいる。それでいいのか公務員。


「とにかくッ! 残念だったな、後ろは崖だ。もう逃げ場はないぞ! 神妙にお縄につけ!」

「あのさあ、その言い回しはどこから仕入れてきてんのかな」


 わりと本気の質問は、『ほっとけこの野郎ちくしょうめ!』という暴言で流された。
なんだかよくわからんが、からかい甲斐のある奴である。


 ふむ。



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