短編小説
□追跡悪夢
2ページ/4ページ
「思い上がってんじゃねーぞ、この妄執が」
我ながら低い音が喉から漏れる。ああだって、なんかすっげームカつくもん、こいつ。わかりあえないはずですよ。
俺は苛立ちで恐怖を忘却し、溜まった不満を、友の形をしたものにぶつけていく。
──だってさ、こんなのと、逆立ちしたってわかりあえるわけがないじゃないか。
「迷惑だ。犠牲を出さずにおさめる器がないんなら、初めから何かをしようとするな、小者風情が」
そんな小せえ器の奴が何かを望んだって、周りが迷惑するだけでしょ。ほら、ちょうど、今みたいに?
ああなんか本気で腹立ってきたわ。何が怨念そのものみたいだふざけんな。
「あ? 何? 綺麗事じゃ世の中救えない? ──救えないなら救おうとするな。誰があんたに救いを望んだよ? 救われないやつは救われないなりに、せめて小者には救いなんか求めないんだよ。お前にはできなくても、綺麗事を通せるやつが必ずいる」
何を一人で盛り上がってんのか知らないが、救世主気取りかこの野郎。ただのB級ホラーなんだよ、このド三流が。
あったまきたわ、マジもう最悪だ、役者不足の分際で舞台にあがろうとしやがって。大根が。
「つまりさ、俺だけは手を汚す覚悟ができてる、って勘違い野郎でしょ、あんた。そんなんただの自己顕示欲だろうがゴミが。汚れはてめーだ。そんなもん押し付けられる方の身にもなってみろ。汚れる俺はかっこいい? は、勝手に一人で浸ってろよ」
誰の迷惑にもならねーところでな! 知ってるか? ゴミが生きるだけで酸素は減ってんだぜ畜生が。
「愛だけじゃ救えない? それは救えない奴の理屈だろ。てめえができねえからって周りを同レベルにするな弱者」
ばっかじゃねーの、マイナスにマイナスかけてるつもりだろうが、思いっきり足してんだよ馬鹿。あーあーあー、マジで余計なお世話ですよくそが。
「そんな底辺が、思い上がって、何かしようなんて思いやがった! それがこのザマだ。どうしてくれんだよ、あんた、俺の友人、返してくれんの?」
あーハイハイ、わかりますよわかってますよ、無理だよな無理なんだよな、それができる奴なら、こんなことしてねーもん。
ああもうマジ迷惑。何、壮大な公開自慰行為ですか。どんだけ変態だよマジ滅べ。■ね。■ねじゃなくて■ね。
「悪いけどさ、こんな悪夢は必要ねーわ」
いくら現実が悪夢だからって、別の悪夢にすり変わったところでなんの意味もない。
というわけで、とっととこんな悪夢とはおさらばだ。
それじゃあ、ばいばい。
二度と出てくんな。