お題小説

□悪性ラバー
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白昼メランコリー


「簡単なことだよ、ワトスン君」


 目の前の少女は、軽やかに笑う。俺は、ぐうの音も出ずに押し黙る。くそ、どうしてこんな少女にわかる事実が、自分には解けないのか。自信を無くさずにはいられない。


 女々しい?
 ああ女々しいさ。


 どこの世界に、自分より年下の少女に『ワトスン君』などと称され喜ぶ探偵がいるというのか。いや、いるかもしれないが、生憎自分にそんな趣味はない。
少女が可愛くないわけではない。むしろ並以上に可愛い。可愛いから困る。
しかしこの少女は自分の容姿になど毛ほども興味はなく、それどころか邪魔だと思っている節があるのだ。

 まあ、選ぶ仕事によっては邪魔なこともあるかもしれない。もちろん個人差はあるが。しかし何故わざわざ、その数少ない邪魔になる職につきたがるのか。
始めはガキの道楽と放っておいたが、一向に飽きる気配も諦める気配もなく、正直手に余っていた。

 女はおとなしく嫁にいって幸せになれ、などと古い考えを押しつける気は毛頭ないが、しかし少なからず、そうしてほしいと願っていたりする。


 ……そんなことを考えていたら、だんだん悔しさも薄れてきた。そうだそうだ、ガキにいちいち目くじらたてる必要はない。


「う、おっ!?」


 一人思索に耽っていると、正面……つまり少女が、鋏を投擲してきた。
危険極まりない。俺だから避けられたが、あんなもん至近距離から高速でぶつけられたら、痛いだけではすまない。


「何しやがる」

「いや、失礼なこと考えてるみたいだったから。そういう時絶対顎に手をあてるんだよね。当たったでしょ?」


 ……そうだったのか。

 やたら思考を読まれると思っていたら、どうやら自分の一挙手一投足は観察対象だったようだ。そしてその成果は確実にあがっているらしい。

 ガキのくせに、この道に向いていたりするから、また困る。



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