長編小説

□鬼執鬼終
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ひとの住む里


「私の家は里の端にあるんです」


 後ろを振り返りながら、少女は話しかけた。相手は二名、言わずと知れた、鬼雷と鬼空である。そして小走りで先を進む少女は、二名に『くう』と名乗った。

 先刻──といってもだいぶ前。山賊達が散り散りに逃げ去り、『音』と取り残された後。三名は人里へ向かい歩を進め、少女の住む里へと辿り着いていた。
 あの後『音』は暫く響いていたが、やがてなくなった。なんとはなしに不気味さの残るその状況で、震える少女を一人帰すのも憚られ送ることにした二名だったが、少女がどうしてもお礼がしたいと言うのを断りきれず、滞在する運びとなったのだ。
 もとより長居をするつもりはなかったのだが、あまりにも少女が懸命に訴えるものだから、なし崩し的に少女の家へと向かっているのが現状というわけである。しかし、それにしても。

 居心地が悪い……。

 内心で、鬼雷は溜め息をついていた。
 それは例えば、少女が純粋すぎて逆に申し訳なく感じている事だったり、あまり人と関わりたくない事も原因であるのだが、それよりも、この里へ来てからの視線である。
 遠くから、または面と向かい、凝視されている。

 好奇、疑心、畏怖、困惑。

 それは人によって様々に形を変えていたが、どれも気分の良いものとは言えなかった。そしてその視線はどうやら自分、鬼雷に向けられているのだ。
 既に夕刻は過ぎ、あまり外を徘徊する人間も見当たらないというのに、いやそうでなくとも、この視線は少し異常だった。

 元々外来の者を良く思っていないのは、なんとなく感じられるのだ。
 それは視線よりもむしろ態度の方から察したのだが、それはこの際どうでもいい。何しろ嫌悪感でいえば、こちらの方が多分勝って抱いているだろうから。
 しかし余所者といえば隣の男、鬼空も同じであるというのに、無遠慮な視線は、はっきり鬼雷に焦点を合わせている。

 何故か。

 それは、よく考えればすぐに答えが出そうな疑問だったが、鬼雷はそれをしなかった。無意識に回避を図ったのかもしれない。


「らい、くう、そちらの客人はどなただい?」


 少女の手前、視線には気づかないフリをして黙々と進んでいると、不意に人の良さそうな老婆が声をかけてきた。

 ──いや、『らい』に『くう』と言ったか。『くう』とは少女のことだとして、『らい』というのは誰のことだろう。

 嫌な汗が背中を伝うのを感じ、鬼雷は呼吸を整えようと息を吸った。



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