長編小説
□RRPG
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平和な日々に進路をとれ
「俺とあんたの何が違うっていうんだ」
その男は暗く吠えた。決して大声で叫び散らしたわけではなかったが、声音には確かに激情がこもり、瞳はぎらぎらと燃えている。
男の手中で沈黙したままの剣は奮われることなく、切っ先はだらりと地に向いていた。
対峙する人影は、儚なげに視線を逸らし、また剣と同じく沈黙している。
その問いには、自分も答えられないからだ。自分こそ、その答えを知りたいというのに。
何も違わない。似すぎているくらいだ。
ただ、相手は怒るだろうが、その心中は理解できるような気がした。
選ばれない惨めさなら、自分は誰よりもわかるはずだから。
「俺は男で、血だって受け継いでいる」
剣を握る力を強め、男は言う。
そうだ。その通りだ。
その事実は、今となっては古傷であるとはいえ、こちらの胸を抉るに充分な言葉であり、また真実だった。
自分は女だから、剣の守り人には本来ならば不足であるから。だからこうして、剣は今、自分ではなく男の手にある。あの剣は、相応しい場所を己で選ぶのだ。
「なのに何故認めない! 言うことを、きけぇ!」
苛立ち、ついに男は声を荒げる。
沈黙の剣に対するそれは、命令でも懇願でもなく、制圧だった。ただ相手を屈伏させることだけを目的とした、一方的な圧力。
目を血走らせながら折れんばかりに剣を握りしめ、必死に言葉を繰り返す様は、到底正気の沙汰とは思えなかった。その姿は、畏怖や恐怖よりも、悲壮さをこそ際立たせる。
──哀れだと、思う。
ほんの少しでも血をわけた目の前の男を、可哀想に思う。
それはもしかしたら、自分の姿であったかもしれない。あちら側で、沈黙の剣を握りしめながら激昂したのは、自分であったかもしれない。
そう思うと、一層その感情は濃くなった。
ほんの少し。
ほんの少しの誤差が、今完全に自分達を対極に置いている。
その事実が滑稽で、より凄惨さを状況に与えた。
わかるのだ。あれは、かつての自分。道を間違えた、自分なのであると。
知っている。知っているんだ。
だってあれは自分なのだから。どうしたいのかも、どうすればいいのかも、本当は何を望んでいるのかも。全部、全部知っている。
だから、あえて踏み込もう。その心の一番柔らかい部分に手を伸ばそう。その場所は、逆鱗の近くだろうけれど。
怖いだろう。
苦しいだろう。
惨めだろう。
悔しいだろう。
痛いだろう。
──悲しいだろう。
けれども見捨てたりしないから。諦めたりしないから。もう間違えたりしないから。
自分は、それを知ったから。
そう思えるようになったから。