短編小説

□理論武装
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「僕か」


 まるであっけなく、あっさりと友人は気が付いてしまった。僕が隠した真相に。


 ──ああ、もう二度と僕は君を■■■■ないのに。


「……鍵のかかった扉を、僕が通った」


 友人の声音から表情は全く読み取れない。
むしろ僕の方がひどい顔をしているだろう。喉から出る声は擦れている。


「いいんだ、いいんだよ、思い出さなくて」


 ──頼むから。


「ああ、僕は……もう、死んでいたのだっけね」


 …………おしまいだ。


「おかしいとは思っていたんだ。そうだ、これで全ての矛盾は解決する。皮肉な話だね。……すまなかった」


 あまりに静かに微笑み、友人は頭を下げた。
僕は置いていかれる子供の表情で、意味のない言葉を繰り返す。


「だから、いいんだよ」


 好きだった。
 大切な友人だった。
 だから生きていなくとも、そこにいるなら、よかったんだ。


 いっそ思い出さなければ。
 いや、気付かなければ。


 ──それはどうしようもないか。彼が彼である限り、かならず真相に辿り着く。

 覚悟をきめて、僕は友人に告げる。


「忘れたら、また来てくれよ。今度こそは上手くやってみせるから、君はその武装を少し解いておいてくれ」


 頼むから、また語ろう。


 軽く見えるように努力しながらそう言うと、友人は目を見開き、視線を巡らせ、首を振り、微かに笑った後。


「善処しよう」


 困ったように呟き、静かな笑みを湛えたまま、ゆっくりゆっくりと姿を消した。


 再び、沈黙。


 ──さて、次こそ引き止めてみせる。


 今度は上手くいってたんだけどな。軽率だった。
しばらく別れの余韻に浸った後、反省と対策を僕は呟き出す。そう、このやりとりはもう何度目か。幾度も繰り返し、また僕は失敗したのだ。


 ──ほんの少し、君が矛盾から目を逸らしてくれていれば。


 しかし友人が友人なのはかわらないわけで、僕もかわらないのであれば、ならば結局、この結末はいつまでも繰り返すのだ。
まあ友人を見習って、またの機会まで知恵を絞ろう。きっとまた彼は現われる。


 ……しかし気になることが一つ。そのあたりの記憶が何故だかすっぽり抜けているのだが。



 君は一体何故死んだのだったか?




理論武装
(そうかつまり僕は何度も君を殺し取り戻そうと)



END.
→あとがき。

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