小説■第六巻■
□男子高校生の非日常
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『よ〜んす!お疲れ!』
泉がいつもの調子で挨拶をしてくる。
栄口は時計を見た。
18時45分。間違いなく泉は18時43分着で大宮に戻ってきた。
栄口は心の中で泉に謝った。
『ほらよ、名古屋土産。栄口にしか買ってきてないから水谷には黙ってろよ』
『わぁ♪ありがとう!味噌ダレ?まさに名古屋名物だね☆』
栄口は泉から手渡されたお土産をまじまじと見た。
確かに名古屋めしで有名な店のパッケージだった。泉は間違いなく名古屋に行ったのだ。
『水谷は?何時に着くって?』
泉が聞く。
『7時18分だって』
『意外にすぐ着くな。どうする?茶でもして待つ?』
『あ〜…でも俺、今コーヒー飲んだばっかだしな〜…』
『じゃぁここで待ってるか』
泉と栄口は世間話でもして待つことにした。
『で?名古屋のネット友達には会えたの?』
『あぁ、朝の10時に親父に名古屋駅で書類手渡して、友達と会って、夕方の4時ちょい過ぎの新幹線で帰ってきたからな。その土産買った店で昼飯食ってカラオケ行ってたらすぐ時間経ったw』
『ど〜ゆ〜友達?』
『オレの好きなバンドのホムペ持ってる人の。ま〜趣味仲間?』
『男?』
『女の人。社会人だから随分年上』
『へ〜!泉やるね〜!』
『何が?意味不明w』
もうこれ以上、泉は名古屋の話題を避けたかった。
ボロが出てはいけない。
泉は本当は名古屋には行っていない。全くの捏造話なのだから。
『栄口は今日一日どうしてたの?』
泉は話題を変える為にそう切り出した。
どことなく上機嫌の栄口はニコニコしながら
『俺?俺はね〜…今日は一日ず〜っと渋谷にいたw』
と答えた。
栄口の気持ちは晴れやかである。
疑っていた今回の泉旅行がシロであったと確信出来たから。
二人の思いが交錯する中、改札口方面から水谷の気の抜けたような声が聞こえる。
『おーい!栄口〜!あれ〜?泉もいる〜!』
ヘラヘラとした笑顔は家族がいても変わらない。
泉と栄口は丁重にご家族に挨拶をして別れ、
三人で近くのファミレスに入ることにしたのである。
水谷は何事もなかったかのように振舞う。
もちろん泉も。
今日の二人の情事は、二人だけのヒミツなのだから。