小説■第六巻■

□禁キョリ恋愛
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『それでさ〜…高瀬のヤツが打たれてさ〜w』


あれから慎吾と泉は世間話をしながらなんとなく慎吾の家に向かっていた。
その間、泉は聞きたい質問をはさむことが出来ず、ただただ慎吾の喋っている話を聞くことしか出来ていない。


『…あ、上がって上がって!今日誰もいないから気兼ねなく〜♪』

どことなく上機嫌の慎吾に連れられて家まで来てしまった。
どうせ泉は今日、やることもなく暇を持て余していたのでいいのだが…

『はぁ…それじゃ〜おじゃましま〜す。。。』


結局言われるがままにここまでついて来てしまった。
慎吾はバイトでついた油の臭いを洗い流したいと風呂に行ってしまう。
その間、泉は慎吾の部屋に上がらせてもらい、置いてあった野球雑誌などを見させてもらっていた。

慎吾の机の上には大学名の入った赤本が置いてある。
…一応勉強はしているということか。


そのまま10分ほど経った。
『あ〜さっぱりした〜』
などと言いながらパンツ一丁で慎吾が部屋に戻ってきた。


『ちょ//パン一で来るとかどんだけ!』
泉が目を逸らして頬を赤らめると
『え?別にイイじゃん、俺と泉君との仲だし?だいいち水着と一緒でしょw』
と笑いながら返す慎吾。

『いやいや、水着とパンツじゃ〜ニュアンスが違いますから。』
泉ももっともなことを言って返した。


慎吾はベッドに腰を下ろしながら
『最近さ…受験勉強が手につかなくてね。。。』
と、突然悲しそうな顔で言った。

泉はすかさず頭をめぐらせる。
今までずっと慎吾が話しを切り出すのを待っていたのだ。
そして今、その核心の話題が出てきたと確信したのである。

泉はふうと一息ついて
『勉強が辛いんですか?』
と聞いてみた。


『辛いってゆ〜かね、何でか知らないけど手につかないんだよね…』
慎吾はいかにも辛そうな表情を作ってそう言った。

『目標の大学が見つからないとか?』
泉はまっすぐ慎吾を見つめて言う。

『う〜ん…これと言ってないね〜…成績に見合った所の候補はいくつか…』
『勉強したい学部とかは?』
『それも…分からないね〜…』


慎吾はベッドにごろんと仰向けになり天井を見つめる。

泉は思う。
受験生は時に鬱状態になることがると知っていた。
恐らく慎吾は今その状態なのだろう。


ヘタな慰めをかけてもかえって逆効果かもしれない。


泉は慎吾の横、ベッド脇に腰を下ろした。

『大学に行くなら勉強はいつかしなくちゃいけません。』
『…そうだな。』
『手につかない時に勉強したって頭には入りません。』
『うん?』
『だったらバイトに精一杯になるのもいいんじゃないですか?』


慎吾はムクリと起き上がって泉を見つめた。


『…?何ですか?』
目を見開いて見つめてくる慎吾に、泉は首をかしげて聞く。

『いや、そんなコト言うヤツ…今まで誰もいなかったから。』
慎吾は右手を頭に持ってきてぽりぽりとかきながらそう言った。
『そりゃ〜みんな勉強しろって言うでしょうw』
泉は思わず笑い飛ばしてしまった。

『そりゃ〜…そうだけど、さ。』
『それに…浪人はしない方がいいけど、してもそれはそれで楽しいって兄の友人が言ってました。』
『へぇ…』


こころもち慎吾の表情が明るくなったような気がした。
泉は少し安心する。

自分はまだまだ受験とは程遠いし、今はむしろ甲子園に向かって走っている時期だけど、
そんな自分の言葉で受験生の慎吾の気持ちが楽になったのであれば、それはよかった。



慎吾は一度うんと伸びをすると
『あ〜…なんだかくよくよ考えても仕方ねぇよな〜!!』
と言いながらもう一度ばふんとベッドに寝転がった。

『そうそう!そんでしばらく休めば勉強する気になる…かもしれないですw』


泉はニッコリと微笑んだ。
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