小説■第六巻■

□ストロボ・エッチ
3ページ/6ページ

『やっぱセールだから安い!ラッキー♪』

泉と叶は各階に散らばっているメンズのショップを見て廻った。
あ〜でもないこ〜でもないとお互いの私服を選び歩く。
別に買うわけでもない、ただ見て廻るだけでも楽しいひと時なのだ。


なんだかデートみたいだな…


泉は心の中で密かにそう思ったのだが、口に出してはもちろん言わない。
きっと叶の中では自分はただの友人という位置づけだろう。
…少しばかり切ないが、これは泉にとって誰といても感じる感傷であった。


『泉、これなんか似合いそう♪』
楽しそうな声で叶がワゴンのシャツを手に取り泉に当てる。
『そう?ちょっとガキっぽくね?』
カラダの前にシャツを当てられつつ、泉は下を見てそう言った。

『そ〜かな〜?泉は童顔だからイイと思うんだけど?』
『…それ叶が言う?』


自分だって童顔だろうが!
…これがもし浜田だったら拳を食らわせながら突っ込みを入れるところだ。
だが相手は叶。
いくらなんでもそこまで深い仲ではない。

泉は自重するのであった。


『これ、叶にピッタリだと思うんだけど〜…』
泉は同じワゴンにあったカーディガンを手に取って叶に合わせてみる。
『あ。俺コレ好きかも♪』
叶はそのカーディガンを見て嬉しそうに言った。
これはお買い上げか?
泉はショップの店員よろしくオススメするのであった。


その時


『…やべ。』
突然叶が低い声で呟いた。

その様子に泉はただならぬ気配を感じて思わず後ろを振り返る。

その目線の先。
自分たちよりずっと向こうに見たような顔があった。


『畠だ。』
叶はくいっと泉の腕を引っ張り、商品の陳列棚の影に隠れた。

別にやましいことをしているわけではないのに、咄嗟の行動だった。

いや、他校の生徒に自分の学校の制服を着させて遊んでいる。
…それは十分にやましいことであろうか。


『ど〜する?叶。』
泉は小声で叶に聞いた。

『大丈夫。気づかれてない。畠、夢中で服選んでるから……こっち来て。』

叶はこそこそと泉の耳元でそう呟くと、畠の位置から死角になるように商品棚の間をすり抜けて動き回る。

幸い向こうは一人だ。
目線は商品ばかりに行っている。
畠はこちらに気づく様子もなく、ぶらぶらと歩き回っているようだった。


まったく…ブサイクは何着てもブサイクなんだよ!
…な〜んて毒舌を心の中で吐きながら、泉は叶に連れられて一つ下のフロアまで降りてきた。
ここまで来れば大丈夫であろう。


『ふ〜…危なかった〜w見つからなくてよかったなw』
叶はすっきりした笑顔で安堵していた。

『ホント…余計な詮索されるのも面倒だしなw』
泉もつられてけらけら笑いながら答える。


見つかってはいけない!!


…それほど危機迫った状況でもないのだが、
なんとなくこそこそ逃げ回るというシチュエーションが気分を高揚させる。
俗に言うスリル感であろうか。

そんなスリルを味わった二人の間柄が、もっと親密になった気がした。


『なんか面白かったw』

二人はもう落ち着いて喋りながらエスカレータでビブレの1階に降りていく。
結局何を買うでもないまま外に出て来てしまった。


『ど〜する?タカシマヤでも行く?』
泉は向こうの百貨店を指差してそう言うと
『ん〜…でもま〜向こうはオトナの服しかないからな〜…』
叶は思案顔でそう答えた。

『それかスタバでも行く?』
泉もどうするか考えながら、とりあえず思いついたことを口にする。


『ま〜この辺うろうろしてたらまた畠に出くわすかもしれないしな、戻る?』
そして叶は駅の方に向かって歩き出したのであった。






あれからすぐに二人は叶の家に帰ってきた。

部屋に入るとばふんとベッドに寝転がる二人。


『あ〜…なんか疲れた〜w』
笑いながら叶が叫んだ。

泉も隣に寝転がりながら
『ホントホントwでも楽しかった〜…他校の制服で外出るのスリルあるしw』
そう笑って体勢を変え、叶の方に向いた。


しばしの沈黙。


ベッドの上で二人は見つめあう形になっていた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ