小説■第六巻■

□爽快エッチ
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この世で起きる卑猥な出来事は全て淫獣の仕業。
そんな淫獣たちを見ることが出来る腕時計こそが淫獣ウォッチです。

淫獣たちとの出会いがあなたの人生にどんな影響をもたらすのか。

それは誰にも分かりません。



【爽快エッチ】



西浦との試合に俺たち武蔵野第一高校は負けた。
負けた理由は間違いなく秋丸先輩にある。

あの人のやる気のなさは前々から感じていたけれど、
やる気のなさに加えて練習不足で技術も稚拙。
そんな先輩が捕手をしてるんだから試合に勝てる方がおかしい。


だけど俺はそんなコトつゆほどにも口に出さない。
だってそれを言ったら俺が捕手をやりたい!…ってアピールしてるみたいだろ?
そんな、男として恥ずかしい真似は絶対出来ねぇ。

それに、俺がそんなことを言わなくなってチームの1年は全員同じこと思ってる。
いや、1年だけじゃない。
榛名先輩だってそうだし、引退した3年も、監督だって同じこと思っているはずだ。



だったら放っておけばいい。
もし、秋丸先輩があの試合を反省せずにこれからも変わらないのなら。



だけど一縷の望みはある。
あの試合の後半、秋丸先輩からやる気みたいなものが感じられた。
サードを守ってた俺が思うくらいだ。
きっと榛名先輩だって感じただろう。

それに期待してもいいかな…と思った。




ところで西浦高校は全員1年生のチームだと覚えている。
決して油断したワケではない。
いや、むしろ警戒していたほどだ。

その警戒は計らずも当たってしまった。

だけど過ぎてしまったことはもう戻らない。
だから俺はあの試合の反省点はしっかり反省し、次に向かって練習しているのだ。

そしてイヤな思い出や記憶はネガティブ思考に陥るから極力消し去ろうそしていたのだ。


それなのに俺は見つけてしまった。


あの顔はしっかり覚えている。
西浦と対戦した時の打順は1番。
ポジションは…どこだったっけか。

はじめ見た時は可愛い〜顔した華奢なヤツだなと思った。
コイツ、本当に野球部か?とすら思った。

だけどあいつは榛名先輩の球を打った男の一人だ。

忘れるはずもない。

恨み…とは違うと思う。
だけどちょっとした憎しみは感じている。

この感覚は西浦の選手全員に感じることなのだろうか?
それは分からない。
今、俺は名前を思い出そうとしている。

そう、泉。

泉…なんとかだ。


だけどそれ以上はさすがに思い出せなかった。



俺は横断歩道の向こうで立っている泉という西浦の選手から目が離せなかった。

それは決して好意なんかじゃない。
間違いなく、悪意の目線だったんだと思う。

自分の顔が険しくなるのが分かる。
だめだ。
悪意の目線を送ってはいけない。

そ〜ゆ〜目線は人は敏感に感じる。


そんなことを考えていると信号が青になってしまった。
このまま渡るべきか。渡らぬべきか。


いや、きっと向こうは俺のことなんて覚えていないだろう。
数日前に対戦しただけの相手だ。
しかも俺は名もないサード。

泉とやらが覚えているはずもない。



だから俺はそのまま知らぬふりして泉とすれ違おうとしたのだ。
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