Wonder land
□5.名前
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「確かに、ここに来てから女王の呼び名は女王以外、聞いたことがねぇな」
シャルトルは思い返すように呟く。
確かに、今まで見てきた人達は誰も、女王様の名前を呼ばない・・・。
「この世界の役がある住人は皆、そうだ。ダイヤの騎士、スペードの王、帽子屋・・・」
そう言った女王は、どこか寂しそうだ。
白ウサギもそうなんだろうか?
「だが、論外もいる」
そう言って、ハートの女王はそっと顔を上げる。
「論外?」
「たとえば千隼、お前と、令もその論外だ」
アタシと富田が、役の論外?
少し考えが追い付かない千隼は首をかしげる
。
「異世界の人間がこの世界に入った時、役がかけていると異世界人が役に入ることになることもある。
最近はとくに役がかけがちなのだ。たとえば、千隼、お前はアリスだ」
「アリス・・・」
千隼は青いエプロンドレスの少女が頭に浮かび、少し顔がひきつる。
嫌いではない。
だが、自分はそういうキャラじゃない。
この世界では役を演じている人達、と言うべきかはわからないが、大体が皆、役を連想させる格好をしている。
流石にアリスみたいな格好をするのは恥ずかしいだろう。
「アリスっていうと、あのフリフリエプロンの・・・案外、似合」
「想像するな!!」
考える仕草をとるシャルトルの頭を軽く叩いた。
どうやらシャルトルの世界にもアリスの物語はあるらしい。
ここ、スペードの城は赤と白が中心の奇抜な感じのデザインのハートの城とは対照的に黒っぽい青と白を中心に、落ち着いた感じのデザインである。
あの環境に慣れてしまっていたせいか、少し違和感があるが、わりと落ち着くし過ごしやすい。
「はぁっ」
千隼はベッドにごろっと転がってタメ息をつく。
とりあえず今日はスペードの国へ泊まり、ということになっていた。
「アリス・・・」
アタシの、役。
などと言われても、役になんの意味があるかもわからない。
そして、役がかける。
つまりそれは、死を表す。
女王様は当たり前のように言ったが、アタシ達の世界では、大事だ。
怖い。
その大事は、この世界では日常茶飯事に起きている。
そして、ゲームのように、リセットはきかない。
「うわぁあぁあ!!」
突如聞こえてきた悲鳴に驚く。
廊下からだ。
ガチャ
ドアを開けると、スペードの兵士が肩をおさえ、倒れていた。
見回すと、夜勤の兵士達は皆、倒れているか重傷者をおっていた。
「どうした!?」
兵士の一人を起こして問いかける。
「蛇が・・・」
兵士はそれだけを言うと、力尽きたのか、燃えて灰になってしまった。
次々と回りの兵士も消えていく。
やはり、基本兵士の正体はトランプだとわかっていても、消えてしまうのは嫌なものだ。