Wonder land

□12.足手まとい
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あれから何とか鼠はまいていた。

走る毎に変わる空間。

公園、屋上、商店街・・・皆、令の今まで見た光景の一つだろう。
ところどころ、懐かしい記憶も浮かび上がる。

とは言っても、実質会ってからまだ一年もたってないのだが。
そういえば会ってからは随分長く感じるな・・・。
そんなことを考えながらずっと走っていると、ふと、光の入った鳥籠のようなものが目に入る。

何だろうと思い、触れると、また背景が変わった。
見た感じは裕福な家の一部屋。

部屋の中にはヴァイオリンやピアノの楽譜がバラバラに散らばっており、ヴァイオリンも床に転がっていた。
いくら美的感覚に優れていると言っても、人より少し上手いぐらいのもの。

努力もなく上達など自分には不可能だと令は言っていた。

言うだけあって裏では結構頑張って練習していたらしく、たまに屋上に来て、アタシに苦笑いしながら弱音を吐いていたのを覚えている。

それでも、クラスメイトの前では平然を装ったりしていた。
それを見て、健気だなと思ったこともある。

見た感じきっとここは、令の部屋なのだろう。
目の前にベッドに座っていて、少しうつむいている令の姿を確認した。

「令」

「帰れ」

令に声をかけると、冷たく言い放たれる。

いつもと雰囲気は違った。
だが、きっとこの感じは本物だ。

「ふざけるな。戻るぞ」

「早く帰れよ!!」

まるで言葉が通じていないかのように叫ばれる。

迎えに来られたのが不満なのだろうか?

「どうしたんだ?」

「うざいんだよっ!!嫌いだ、僕の前から消えろ」

そう、言っている令の表情は目が微かに揺れ動き、今にも涙が溢れそうだった。

「そんなこと言っても、アタシはお前を嫌えない」

令はアタシに、嫌われようとしている。
それがアタシには何と無くわかった。

令にはもう、涙を止めることはできず、そのまま溢れ出してしまう。

「僕に、千隼と一緒にいる資格なんてないよ」

かすれた声で呟く。
女王様が言うには、令は鼠に負けているから外に出れないらしい。

鼠に負けたと言うことは、自分に負けたと言うこと。
プライドの高い令のことだ、自分が情けないのだろう。

「アタシといるのに、資格なんて必要ない」

そう、優しく言って、令の涙をそっと拭う。

「僕といても足手まといになるだけだ。いない方がいい」

今にも消えそうな声で令が呟く。
令はワンダーランドに来てからたまに不安そうな表情をみせていた。

それはこの世界への不安だと思ってたけど、

「足手まといだろうがなんだろうが、アタシが、令と一緒にいたいんだ。文句あるか?」

令にも思うところはあるんだろうが、アタシは令と一緒にいたい。
足手まといなんて思ったこともないし。

色々と、ふざけあって、色々と、助けてもらったりして。
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