Wonder land

□5.名前
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女王様は大丈夫だろうか・・・。

千隼は街を歩きながらぼーっと考える。
あれからシャルトルが「女王は先に城についてるだろ」と言うので結局そのままスペードの国に来てしまっていたのだ。

不安半分に城に向かうと、案の定ハートの女王は寛いでいた。

「ああ、そなたら、遅いぞ」

ハートの女王がだるそうに呟く。

なんというか、ぴんぴんしてる。
あれから色々危険もあっただろうに。

“女王は最強だ”と言ったシャルトルのセリフを思い出す。

ちなみにハートの女王以外、兵たちなどはとうに全滅したと言っていた。
そして、千隼はハートの女王の繊細な手を見て一言。

「トマトケチャップ・・・」

紅く染まった手を見て呟いたのだった。
千隼の言うところのトマトケチャップはよく見ると女王の服にも飛び散っている。

「千隼、現実逃避するなあれは・・・」

「トマトケチャップで良い」

シャルトルのつっこみもむなしく、ハートの女王の一言にかき消された。



「ハートの女王、白ウサギ、スペードの王・・・」

城内の広く、静まりかえった廊下に千隼の声が響く。

スペードの王との面会は終わり、無事和解できた。
ただ、千隼は一つ引っひかっていた。

「女王様」

「なんだ?」

前を歩いていたハートの女王が、こちらをちらりとむく。

「女王様って、何て言う名前なんですか?」

その一言を聞くと、女王は急に立ち止まり、千隼はぶつかりそうになる。

「わらわの名前、か」

「だって、皆女王呼びだよな?悪いがアタシ、あんたの名前知らないんだ」

白ウサギも、さっき会ったスペードの王もそうだ。
アタシは皆の、名前を知らない。

名乗られてすら、いない。

「んなもん、俺も知らねーよ」

シャルトルが口を挟む。

情報に詳しく、さらにこの世界にきて一年、たっているシャルトルですら知らないのだ。
聞いてはいけないことだったのだろうか?

「わらわも知らぬ」

返ってきたのは意外な言葉だった。

「は?」

「だから、わらわはわらわの名など知らんのだ」

自分の名を知らない?

そんな馬鹿な・・・。
千隼とシャルトルは呆然としてしまう。
冗談か何かか?

「名前知らないって、自分の名前だろ!?」

「だから、知らぬのだ」

やはり、女王は冗談を言ってるようには聞こえない。

「そうか、そなたらは異世界のものだから解らぬのか」

ハートの女王はタメ息をつくと、話をはじめた。

「わらわは幼きころは姫と呼ばれ、国を任されるようになり、女王と呼ばれるようになった。
名など、ついていたかも知らぬ」

「姫に、女王・・・」
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