Wonder land
□プロローグ
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逃げ込んだのは普段使われていない教室。
もう夜なので外は暗く、使われていないこの教室には何とか薄暗い明かりがついている。
ついている、と、言うか僕が全教室の主電源をつけたからなのだが。
この学校の電源は各教室の他に、職員室で全て操作できる仕組みになっている。
現在僕、富田令はドアの前で息を潜めていた。
突如現れた、奴から逃げているのだ。
バリーンッ
「やばっ」
ドアの窓がわれ、ガラスの破片が飛び散る。
むき出しになった窓からは奴、巨大な蛇が僕をのぞく。
叫びたくなるが、緊張のせいか声が上手くでなかった。
まぁ、きっと叫んだところで僕以外の人はいないだろう。
教員もいないのに門を乗り越えて入って来たのだ。
希望は限りなく薄い。
僕だって忘れ物をとりにきたわけじゃなきゃこんな暗い校舎・・・。
大体巨大な蛇など七不思議か何かの一つだろうか?
巨大蛇何てそんな七不思議、学校でも聞いたことなかったけど。
蛇に追いかけられ、廊下を走りながらそんなことを呑気に考えていた。
って、そんな場合事考えてる場合じゃないし。
実質、僕は命の危機をむかえている。
さて、どう逃げ切ろうか。
「伏せろ!!」
頭を巡らせながら走っていると、急にどこからか聞き覚えのあるアルトな声が聞こえ、言われたとうり伏せる。
次の瞬間、蛇の額を竹刀で殴り付ける女性の姿が目に入った。
ふわりと浮き上がった肩につくかつかないかくらいの艶のある黒い髪から同色の瞳が見えた。
神崎千隼。
愛らしく美人な容姿をしているがいい意味で言えばクール、悪い意味で言えば無愛想でどこか、人を近づけないような空気を持っている女性だ。
色々問題も起こしていて・・・まぁ真面目なタイプの僕としてはできれば関わり合いになりたくなかった奴だ。
最近は色々あって、よくつるむようになったんだけど。
竹刀はきっと剣道部のものを持ち出してきたのだろう。
「何だこのバケモノは・・・」
神崎はそう言った後、軽く息を吐いて蛇を見下ろした。
「僕だって知りたいよ」
とりあえず助かり、落ち着いた僕も蛇に視線を落とす。
僕の声を聞いた神崎は、思い出すようにこちらを振り向き、僕の姿があることを確認した。
「ああ、富田か。何やってるんだ。一人で七不思議解明か?」
「そんな寂しいやつみたいなことするか!
忘れ物とりにきたんだよ」
七不思議解明なんて小学生じゃあるまいし、しようとは思わない。
「奇遇だな、アタシも忘れ物取りにきていたんだ。
そしたら巨大な蛇にお前が襲われてるのが見えて・・・」
実は校内でのバケモノ出現はこの蛇が初めてなわけではないらしい。
都市伝説だが、数年前には人一人分ほどの大きさの蜘蛛が現れたと聞く。
その時は職員の一人が消火器を振りかけ、退治したらしいが・・・。
どちらにしろ、恐ろしい学校だ。
一体原因は何なのだろうか?