Wonder land

□3.闇
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ドカーンッ

爆発音が響くと、宿の一部が燃え上がった。

「なっ・・・」

千隼と令は驚いて辺りを見渡す。

急にどこからか炎の玉が飛んできたのだ。
宿中の住民がパニックになる。

入り口の方からは煙と共に複数の影が揺らいでいた。

「何だよ急に!?」

「隠れてください」

千隼が炎の玉を投げてきた相手を確認しようと思い、近づこうとするが、白ウサギに腕を引っ張られた。

「今は敵う相手じゃありません」

「住民を、見殺しにするのか?」

「犠牲者が増えるよりはマシでしょう」

そう言われ、何も言えなくなる。
そう、千隼も魔術ができると言っても、低級程度だ。

炎の玉自体も低級な技だが、複数相手なので油断はできない。

「何なんだ?あいつらは」

「あいつらはクローバーの兵士です」

『クローバーの兵士?』

令と千隼の声が重なる。
クローバー・・・と、いうと、あの葉っぱの?

そういえば、トランプのマークにもそういうのがあった。

と、ともにアタシは子供の頃読んだ童話を思い出す。

ー不思議の国のアリスー

その不思議な世界観にはどこか惹かれるものがある。
帽子屋、チェシャ猫、ハートの女王、トランプ兵・・・白ウサギ。

個性的なキャラクターの数々はなんか、この世界にも通じるものがあるらしい。

まぁ、話しには不具合を感じるのだが。
だとしたら白ウサギに連れられてきたアタシは、アリスだろうか?

否、性じゃない・・・。

「白ウサギなら、倒せないのか?」

「兵士だけなら問題ありませんでしたが、先頭に厄介な相手がいるようなので」

その言葉に、もう一度こっそり兵士たちを覗き見た。

クローバーの兵士の中心では、一人の青年が指揮をとっているようだ。
肩まで伸びた赤い髪に、顔にはペイントが施されている。

ドカーンッ

近くに火の玉が打ち込まれる。

「え、気付かれた!?」

令が驚いて声を上げる。
クローバーの模様が服に入った兵士達がこちらに歩いてきた。

「っ・・・、逃げますよ」

三人はそのまま人気のなさそうな場所へと走っていった。



湿った地面に四方八方の木々。
足元には落ち葉の感触がリアルに感じる。
気付けば森の中にいた。

「ここまでくれば・・・」

白ウサギが息たえだえに呟く。
三人とも息を切らして地面に腰を落とす。

三人は結局兵士をふりきるまでかなり長い間走っていたのだ。

「白ウサギ・・・」

何とか息を整えた千隼が口を開く。

「はいっ?」

白ウサギが首をかしげる。

「あいつらが敵なのか・・・?」

「敵と言えば敵、という感じですね」

少し間があった後、白ウサギが曖昧な感じに言う。

「どうすんだよ?」

「いつかは戦う事になるかもしれませんが、まだ時期ではないでしょう」

「確かに今じゃ無理だしね」

令は苦笑いをしながら呟いた。

「とりあえず、ここから一番近い街に行き、宿をとりましょう」

他にいい案はないので結局はそうなった。



バサッ

風呂上り、頭をふいていたタオルをかける。
あれから無事、宿にはたどり着くことができた。

白ウサギによると、この後アタシたちが向かうのは・・・ハートの城。

きっと、ハートの女王がいる。

どんな人物だかは物語通りなら想像がつくが、現実はそうとは限らない。

目上という緊張。
もし、物語のように、死刑、と言われたら。

考えるだけでぞっとする。
アタシとしてはそんな面倒ごとはごめんだ。

「疲れた・・・」

ハートの城へつけば、アタシ達の戦いは本格的に始まる。

これから、アタシらはどんな奴と戦うことになるのだろう?

負けたときの事を考えたりすると、未だに憂鬱と恐怖がアタシの中で膨らむ。

この戦いは決して逃げられない。
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