文
□波音が運ぶ恋
2ページ/7ページ
立派な家系に生まれながら、束縛や型にはまるのが嫌いで、自由気ままな旅をして暮らす慶次。
ここ何日か身を置いている港町は漁をする人々や市場など、活気に溢れていて慶次はとても気に入っていた。
良く晴れた朝。
宿から出ると、騒々しく港に集まる人々の姿があった。気になった慶次も野次馬になって港へ向かう。
(わぁ、でっけぇ船!かっこいいな!)
港には漁船よりも遥かに大きな船が着船していて、付近には商人や漁師たちが集まっていた。そして、町民とは違う出立ちの男たちが忙しなく動いている。どうやらこの船の船員らしく、町民たちと話しながら市場の方に行ったり、積み荷や木材を運ぶ者たちもいた。そして、中でも一際目を惹く、眩しい髪色が印象的な男が慶次の目に止まった。
(あの人が船長なのかな…?)
仲間たちから「アニキ」と呼ばれるその男も桟橋から陸へ降り立ち、町の方へと歩いて行く。やがて人だかりは散って行き、いつもの港の様子に戻った。だが慶次は見たこともない大きな船に見惚れ、しばらくそれを眺めていた。
「そんなに珍しいかい?あの船が」
突然、背後から声がして慶次は振り返る。先ほどの船長らしき銀髪の男だった。
「あんなに大きな船、初めて見たから。兄ちゃんのなんでしょ?」
慶次が愛嬌のある笑顔で人懐こい受け答えをするから、男は少し照れ臭そうに笑った。
「まぁな。まだ修理中だから、そんなに見ないでくれよ」
先ほどから船に木材を運び入れたり、補強作業をする船員たちの姿があったが慶次は気にせず見ていた。聞けば、数日前の嵐で少々ダメージを受けたのだと言う。食料調達と船の修理を兼ねて、この港に停泊しに来たらしい。
「俺たちゃ、良くこの港に寄るんだ。初めて見るって言うんじゃあ、ここの人間じゃねぇのか?」
「うん。俺、旅をしていて偶然この町に泊まっていたんだ。でも、こんな船が見れるなんて、運が良かったなぁ〜」
「そうかい。そうだ、なんなら後で…」
「アニキー」
言いかけたとき、船員たちに呼ばれた彼は、また後でなと言って去ってしまった。
近くで見ると更に逞しく、仲間をまとめる人間としての風格が現れた男で、慶次は秘かに憧れの目で彼の背中を見送った。
.