□儚き夢は紫煙の如く
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豊臣の居城は煌びやかで広大な建物である。夜の帳が降りた後、半兵衛は夕刻頃から見当たらない秀吉の姿を捜していた。

「おかしいな。ここにも居ないなんて…」

寝室や軍議室など秀吉の行きそうなところは全て捜したが、どこにも見当たらなかった。あんなに大きな体で隠れる場所なんてないはずなのに…。廊下を歩いていた小姓に秀吉の居場所を訊いてみる。

「君、秀吉を知らない?」

「は…半兵衛様…////私も捜しているのですが…。すみません…」

振り向いた小姓は半兵衛だとわかると顔を赤らめていた。半兵衛は若い小姓や家臣たちの間で秘かに人気がある。だが本人はそんな事は知るどころか興味もなかった。結局、誰に訊いても秀吉は見つからず仕方なしに自分で捜す事にした。

渡り廊下から空を見上げると、朧気な月が浮かんでいた。それと同時に、離れの建物の天守が目に入る。普段は人が立ち入らない場所なのだが、もしかしたら秀吉はあそこに居るのかもしれない。半兵衛は庭へ出て、離れへと向かった。

灯りの無い屋内は人の気配がないだけに、どこか淋しげで殺風景だった。格子戸から差す月明かりだけを頼りに最上階まで昇ると、大きな背中があった。

「ここに居たの?秀吉。姿が見えないからどこへ行ったのかと…」

「半兵衛か…」

灯りも点けずに窓から外を望む姿は少し落ち込んでいるように見えた。半兵衛は秀吉に寄り添い、一緒に外を眺めてみる。そこからは城下町が一望できた。

「時々、ひとりになりたくてな…。こうして外を眺めておるのだ」

「そう…。なら僕はお邪魔かな…」

ならば、ひとりにさせてあげようと半兵衛は立ち去ろうとした。

「待て、半兵衛」

「秀吉…?」

しかし、背後から逞しい両腕に抱きすくめられ、半兵衛は足を止めた。

「だが不思議なのだ。お前の姿を見ると、こうして居たくなる…」

「どうしたの秀吉?君らしくない」

「お前は…お前だけは、我のそばに居てくれ。我にはお前しか居らぬのだ…」

柔らかな髪に頬ずりしながら、秀吉は半兵衛の体をまさぐった。華奢な体のラインが服の上からわかる。

「秀吉っ…////何する気?やめてよ。僕はこういうの好きじゃないんだ」

秀吉は時々このように半兵衛の体を求めてくる。繊細な性格の持ち主の半兵衛はいつもそれを拒んだ。しかし、それでも半兵衛は秀吉を軽蔑したりはしなかった。

「すまない…半兵衛」

大きな体に似合わず、しょんぼりとした秀吉は半兵衛から手を離した。

「もう戻って休んだほうがいい。きっと疲れているんだよ」

半兵衛は秀吉を連れて城内へ戻った。







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