空色写真


「一護、この段ボールはこっちで良い?」

「ああ、サンキュー。適当に置いてくれ。あ、啓吾!そのまま進むと危ねえ!」

「え、うわっ!…セーフ、セーフ!!」

「やめてくれよー、そのスピーカー高かったんだからな…。」


真っ白な部屋が、次々と友人の手で運ばれてくる段ボールで埋められてゆく。これから、中身を全部出して並べなければ。でも、そんな面倒なことにすらわくわくして、気分が高揚する。

「二人共助かったぜ。後は自分でやるから。」

「うん、一護が新生活に慣れた頃にでも泊まりに来るよ。」

「俺も俺も!絶対彼女作って来るからなー!待ってろよ!!!」

「ははは、期待しないで待ってるわ。」


相変わらず騒がしい啓吾を、ピカピカの新車に引きずり込んだ水色は、軽く手を振って帰って行った。初心者マークが、何だかまだ慣れなくて面白い。


「…さて、と。」

真新しい壁に大きなカレンダーを貼って、予定を書き込んだ。明日は大学に教科書を取りに行って、明後日は足りない家具を買いに行こう。来週の月曜日は井上と石田とチャドが遊びに来るって言うし、水曜日は大学の説明会だっけ。結構予定が詰まってる。

これからの食料、食器、タオル…その後に“手帳”と書き加えた、買わなきゃならないものリスト。大学生は手帳が必要だと聞きつつ、俺には関係無いと思っていたが…どうやらもう必要らしい。4月から使える手帳がもう出てるはずだ。

しかし、朝から重労働で疲れた。床に座り込んで天井を見つめていると、ぐう、と自分の腹が鳴った。コンビニでも行くか。



「いらっしゃいませー。」

威勢の良い店員に目もくれず、カゴを取り、弁当のコーナーにまっすぐ向かう。これから住むのは綺麗なアパートだし、徒歩数分の所にはコンビニがある。ちょっと歩けばスーパーも。駅だってさほど遠くは無い、立地条件は完璧だ。
飲み物を何本か適当に突っ込んでレジに向かうと、あまりにも見慣れた人がそこに居た。

「あれっ、一護?」

「…たつき?」

コンビニの制服を着た幼馴染みが、驚いた表情でこっちを見ている。きっと俺も同じような表情をしているのだろうけれど。

「何、お前バイト始めたの?」

「うん、そういえばあんたこの近くの大学行くんだったっけ?はい、カードお返し致しまーす。」

「ああ…そっか、たつきの通う大学も近かったな。」

「そう、だからバイト始めたんだよねー、私立は金掛かるし。お会計980円です、お弁当は温めますか?」

「あ、頼む。」


バイトか…俺もしなきゃならないのかなと思いつつ、でもうちの大学は実習が多いと聞いているし、終わる時間がはっきりしないからバイトしづらいよな。

「じゃーな、頑張れよ。」

「おう。」


俺は現役で医療系の大学に合格した。これから、医療の道を歩むつもりだ。たつきは体育系の大学、名前は忘れたけれど、確かに此処から近かったような気がする。

「…眩しいな。」

雲一つ無い青空、太陽を見上げて無意識に呟いた。眩しいのは空か、はたまたそれぞれ自分の道を歩み始めた友人達か。
清々しい気持ちもあるけれど、やったことの無い一人暮らしや、知人の居ない学校…正直、自身にとっては不安の方が大きいのだ。

免許を取った友達、バイトを始めた幼馴染み。もう働き始めている同級生だっている。皆もう動き始めているけれど、自分はどうなのだろう。


続きます!→



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