□それが愛だといい。
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透明な朝が世界に、少なくとも僕の周りの世界に広がっていた。
ふー、と細長い溜め息を窓に吹きかける。
手のひら程曇ったガラスに、意味のない落書きをしていると後ろから
慣れた香りが近付いてきて、肩に両手を置いて何してんですか、なんて聞いてきた。
らくがき。 と素直に答えてやると、へえ、とか言って僕の耳にキスをする。

『なに、なんか用事あるの』

『え、あ、ありませんけど。
……ごめんなさい、久しぶりに、ゆっくり出来ているから』

そう言って、両手を退かしてからちいさく、
ごめんなさいと呟いた。
ああ心臓の辺りがきりきり痛む。
何故だろう、冷たくされているのは骸なのに、
いまは、僕のほうが、押し潰され、そう。

『寂しかったんです』『毎日』
『あなたは、委員会でいつも居ないから』
『休みの日は疲れて寝ているか、用事で出かけてしまうし』
『今日は休校日で、委員会もないんでしょう?』『起きているし』『家に居てくれている』

ぼそぼそと沢山のことを愚痴のようにこぼしていく。
ごめんね、と抱きしめて今夜は寝れば、きっとそれだけで
泣き出しそうな彼は安心なのだろう。
ただそうしてほしいのだろう。きっと。



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