短編

□藤
1ページ/1ページ


目が覚めた。天井が見えた。隣に有るはずの温もりが無い。また、アンタの居ない生活が始まる。





そもそも私たちの関係に名前なんてあるのだろうか?分からない。会えば自然と抱き合いキスをする。そして、そのまま決まって私は朝、1人で目覚める。居ないのはアイツの職業……なのか?取り敢えず人様に胸を張るどころか顔を見ただけで逃げ出されるような、所謂攘夷郎士。しかもかの真選組に終始注目を浴びる鬼兵隊の頭目となっちゃあ、もう救いようも無い。ま、そういう訳で同じ場所に長く留まるのはヤバイらしく。朝目覚めてアイツが居た事なんて一度も、無い。

いつもの事だと諦め。昨晩の名残のせいか、けだるい身体に鞭打ちながら起き上がれば自然と身体を包んでいた布団が捲れ、肌が顕になる。

あぁ、そういえばまだ服を来ていなかったんだ。

どうせ見るものも居ないしこのままで良いかと考えるも、それだと何か大切なモノが失われるような気がし、何か着ようと辺りを見渡すと、畳に脱ぎ捨ててあった着流しを見つけ、手に取り、羽織る。同じく散らばっていた帯を緩く結びながらふと胸元に散った跡を見つければ自然と笑みがこぼれた。

高杉に好きだ何だと睦言は言われた事など只の一度も無いが、獣がマーキングするようにこの華は毎度毎度欠かさず幾つも咲かせてある。コレがアイツの独占欲の顕れなのだと思えば身体に心地良さが染み渡る。

こうして、私はアイツへの気持ちを否応なしに自覚させられるんだ。




ふと、喉が乾いている事に気付き。昼過ぎにも関わらず電気が点いていない所為で薄暗いダイニングへと足を運べば、微かな息遣い。多少の武芸は心得ている為にある程度なら心配は無いのだが。やはり逸る鼓動を抑えながら身構え、息を殺し電気を付ければ現れたのは居るはずの無い男。悠々とソファに身を預けながら煙管をくゆらせている。電気が点くより以前にこちらに気付いていたのか対して驚く事もなく視線を向けてくる。

「高杉。な、なんで居るの?」

「なんだ、俺がいちゃ困る事でもあんのかァ?」


あり得ない光景に驚きが隠せずにいる私をからかうかのようにニヤニヤとした笑みを浮かべながら言葉を発する高杉に、嬉しさよりも苛立ちが先立ってくるのを感じ、落ち着かせるように深い呼吸を繰り返しては言葉を続ける。

「いや、無いけど。珍しいじゃない。何かあったの?」

「あァ。今日はお前さんに話があってな。本当は昨日話すつもりだったんだが、早々に気絶しちまった奴がいるからよォ」

「そ、それは悪かったわね。で、一体何?」

「お前を船に連れ帰ろうと思ってな」


ククッと喉を震わせる独特の笑い声を響かせ立ち上がると、いつになく真意な目を向けこちらに近づいてくるアイツに少し怖じけつくも、何でもない体を装いつ尋ねれば、返って来た答えに驚き言葉を詰まらせる。

そんな私を意に介する事無くアイツは飄々と私を抱きすくめ、なんとも自分勝手な意見を述べた。


「始めに言っとくが。お前ェに拒否権なんざ端から無ェから。お前は俺の所有物だろうが」



けど。それに対して怒るどころか嬉しさすら感じている私はどうなのだろうか。答えの代わりにキツく抱き締め返すと、またもや頭上から笑い声が聞こえる。

あぁ、こいつに所有されるのは悪く無い。




END
――――――
仁さんにお祝いで捧げますっ。
藤:貴方の愛に酔い痴れる
  至福の時


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ