短編

□欲しかったのは、
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「十四郎、大好きだよ」
「……知ってる」

何時ものやり取り、何回も繰り返されてきた私達の日常。これから先もずっと続くはずの日常。

「ねぇ、十四郎は?」
「ん、……」

貴方は優しいキスや暖かい抱擁で誤魔化して、何時も肝心なところは言ってくれなかったよね?

「もう、何ではぐらかすの?」

軽く拗ねて尋ねると貴方は私を抱き締めながら、決まってこう言うの

「男はここぞというときにしかそうゆう言葉は言わねェもんだ」

少しくさいけど照れながら言う貴方が可愛くて、私はこの台詞が大好きだった。

何時までも交わされるはずだったこの会話、日常。

なんでかなぁ?続くはずだったのに……壊れちゃったよ


天人と幕府高官の密輸入の現場に1人で乗り込んだ貴方は何時までたっても帰って来なかった。

近藤さん達と協力してやっと見付けたのは、冷たくなった貴方の脱け殻と、固く握られた拳からしわくちゃになった一枚の紙切れ。

そんな貴方を見た私達の気持ちが判る?十四郎……

私は絶望したよ。だって、


もう大好きだった台詞を言ってくれないあの唇

もう私を抱き締めてはくれないあの逞しい両腕

もう優しく頭を撫でてくれないあの大きな両手

もう嗅げない貴方から香るあのタバコの匂い達


全部無くなっちゃった。私の前から消えちゃったんだもん。

最後に残ったのは一枚の紙切れ。

私宛に『愛してる』一言だけ綴られた不器用な貴方からの生涯初めてのラブレター


ねぇ、どうしてかな?あんなに欲しかった言葉なのに全然嬉しくないや……


くれなかった時には満たされていた心が、貰えた今は満たされない

あぁ、そっか
置いてかれてやっと分かったよ。私が心から欲していたのは……




本当に欲しかったのは、
貴方と過ごす平凡な日常。




ねぇ、十四郎。
そっちに行っても許してくれる? 
 


But End?
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