DREAM

□待つのもひとつの愛情だ
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私とキリクの関係はミカンに言わせれば「意味わかんねぇ」らしく、オーム曰く「アンタがあまりにも健気で泣けてくるさね」だそうだ。
その昔、まだ私たちが伝説のチーム眠りの森を作ってすぐの頃。私はキリクに繰り返し繰り返し愛の告白をした。自分でもバカバカしかったと思う。でもあの当時は本気だったのだ。
「懲りないなぁ、君は…」キリクは飽きれた顔でそう呟いて、いつだって告白の返事を有耶無耶にしてしまうのだった。落ち着いて考えればあの頃からキリクはリカにメロメロだった訳だし、当時の自分がそのことを知らなかった筈がない。それでもそんなこと気にもならなかった。あれが若さか、納得。
思えば眠りの森が崩壊してから随分と経つのに私たちの関係は変わっていない。私が勝手に付き纏って、キリクは私のことなんて気にもとめていない。
それでも私がキリクの傍にいる理由は、あの時孤立して傷心だった彼を放っておけなかったから。
いつかはキリクが私を見てくれる日がくるだろう。ある程度、仲間たちとの対立によって負った傷が癒えれば。
その日がくるのを私はずっと待っている。待つのもひとつの愛情だ。キリクは心の痛みを抱えたまま二人の人間を愛せるほど強くない。

「やぁ、…もしかしなくてもまたろくでもないことを考えているのかい?」
独り物思いに沈んでいると、キリクが入ってきた。彼が手にしている盆に乗せられたティーポットと二つのカップが、お茶の時間にしようと言外に告げていた。
「ろくでもないことって?」
「私のこととか、リカのこととか…あとはそうだな、空のこととかジェネシスのこととか?」
キリクは私の向かいに腰掛け、テキパキとお茶をカップに注ぎながら言った。当て推量が大まか過ぎて、鋭いんだかそうでないのかまるでわからない。
「あぁ、まぁ…そんな感じ。よくわかったね」
「君の思考パターンはだいたい理解しているつもりだからね」
ちょっと得意気に言って、カップを口に運ぶキリクは優雅だ。私は湯気を立てる自分用のカップを見つめながら、主にそこに向かって口を開いた。
「キリクのことをね、考えてたんだよ」
「へぇ」
キリクは興味深そうに片眉を吊り上げた。その仕種は心外だというようにも受け取れる。
「キリクは私のことどう思ってるのかなって…」
「とりあえず今はお茶が冷める前に飲めば良いのに、と思っているな」
「そういうことじゃなくてさ…」
「わかってるさ、ちょっとからかっただけで」
キリクはそう言って空になったカップを置く。そんな些細な動作さえつい目で追ってしまう自分が少し悔しい。
「君は私をよっぽど馬鹿だと思っているんだな、」
「え?」
顔をあげて、キリクが私を真直ぐ見ていたことに凄く驚いた。食い入るように見つめられると、少し照れる。
「自分をずっと見守ってくれている大切な女の存在に気付いてない訳がないだろう?」
「えっ?」
キリクの言い方では私がずっとキリクへの恋心を秘めていたみたいだ。あれだけ積極的にアピールしたのに。
「大体、君はずっと冗談みたいに好きだ好きだと繰り返していたが…
惚れたのは私のほうが先だからな」
キリクが少し頬を染めて咳払いなんかするものだからこっちまで赤くなってしまった。
「僕は研究所に居た頃からずっと君を見てたよ
…君が気付いてくれるのをずっと待ってたんだ」
キリクの声が懐かしむように少しずつ優しくなっていく。でもリカのこと好きだったでしょ?…訊くまでもないことを尋ねる趣味はないから口には出さないけど。
「キリク、私のこと好きなの?」
「そういうことになるね」
どうやら待った甲斐があったみたいだ。随分遠回りをした気がするし愛情の示し方は他にも沢山あった気がするけど、私たちはこんな風にしか出来なかった訳だし。結果オーライ。
とりあえずもうミカンに意味わかんねぇとは言わせないし、オームを泣かせることもないだろう。
やっと手に入ったキリクを見つめ返しながら、私はすでに冷めてしまったお茶を一口啜ったのだった。










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