DREAM
□鈍いにも程がある
1ページ/1ページ
空を翔ぶのが大好きなあの馬鹿は、本当に、馬鹿だ。なにが馬鹿って言うと、まあ、単にあのバカラスがスーパーウルトラハイパー宇宙規模的に鈍いってことなんだ。
二人きりになりたくて買い出しに誘えばカズ達まで誘うし、好きだと言っても何故か話はかみ合ってないし。何故だろう。
今回もそうだ。あの馬鹿が、私の告白を単なる冗談だと思って、はぐらかして。
もういい加減、あの馬鹿に頭がきて、「ふざけんな、いい加減にしろ!馬鹿!」と罵倒して、教室に走り去ってきてから15分。
「……追いかけてもきやしない…」
今回は、本当に本当に真剣だった。そういう雰囲気だってあったんだ。たとえ、また会話がかみ合わなくても、こんな状況になれば追いかけてきてくれると淡い期待をしていた。……それは見事に砕かれたけど。
「…バカラスめ…いつかフルボッコにしてやる…」
こつんと、窓に額を当てる。怒りで熱くなった肌には丁度いい冷たさだ。
窓に映った私越しには、青い空が広がっている。憎たらしい程、A.T日和な快晴の空。毎日毎日、イッキが飽きずに翔ぶ空。
空を見ると、どうしてもイッキを思い出す。悔しいけど、A.Tをしている時のイッキは本当に本当に、綺麗で、かっこいい。
うっすらと映る自分さえ邪魔で、鏡の役目をしていた窓を開ける。同時に、肌を撫でる程度の風が入ってきて、前髪が少し踊ってくすぐったかった。
「……イッキのバカヤロー…」
ぼそりと呟くと、それを消すように、ガヒュンッ空を切る音がした。この音はA.T特有のものであることは、イッキと関わっていたら嫌でもわかってしまった。しかもその音の犯人が、今まさに目の前に、居る。
「……よ。」
「「よ。」じゃねぇよ!何しに来た帰れ消えろ落ちろ!」
と言うのは、簡単だったけれど、罰悪そうなイッキの顔を見て、そんな気は失せてしまった。見ると、イッキは窓に座る、というより、窓の桟を足場にして屈んでいる。恐れ知らずの素敵なバランス感覚だと思った。突き落としても、意外に大丈夫そうだ。隙あらばそうさせてもらおう。
「………あー…のよ、お前、その、ああいうの、止めろ」
ああいうの、は、訊かなくてもわかる。「好きだ」ということを止めろということ。
完全に望みも希望も砕かれて、少し、泣きそうになる。目頭が、熱い。
「……その、俺は、馬鹿、だからよ…」
知ってますけど。嫌って程知ってますけど。本当に突き落としてもいいだろうか、コイツ。
「…本気に、すんだろ…」
「………は?」
思わず、イッキの顔を見た。耳まで真っ赤で、恥ずかしそうに目を伏せて、頭を掻いていた。
これは、きっとそういうこと。なんだそれ、私の今の一瞬の切なさはなんだったの。本気でわかってなかったんだ、この馬鹿。本当に馬鹿だ。
そんな馬鹿と好き合っている嬉しさで、突き落とすどころか、抱きついてしまった。
鈍いにも程がある
(そんなところも大好きだけどね!)
20100124.