短編

□イタリアの花嫁 前編
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季節で言えば夏。
まだ本物の暑さはやってこないけれど、十分に暑い、肌を焦がすほどの光が照りつける、そんな日。
そんな日に、山本武は深々とため息をついた。それはもう盛大に。親友であるツナや、普段山本には無関心な獄寺でさえ心配してしまう程に。
「はぁ……」
昼休み。
朝から様子が変わらない親友に、ツナは思いきって訳を聞いてみることにした。
「あ、あのさ。山本」
「…ん?」
ツナが弁当箱を握りしめながら話しかけると、パック牛乳のストローを弄んでいた山本がこちらに顔を向けた。
「…そのー…何かあった?」
だがまあ、当然のごとく突っ込んだ質問は生粋のダメっ子ツナには出来かねないものだ。当たり障りのない聞き方しか出来ないボンゴレの10代目なのである。
そんな聞き方に少々やきもきしながらも、ツナの傍らで獄寺はイライラと眉を歪ませているもののまだ大人しく山本の答えを待っていた。
「いやー…そんな、言うほどのことでもねぇんだけど…」
はは、と渇いた笑いを混ぜながら山本は頭を掻いた。それが、獄寺の癪にさわる。
「俺……そんなに変?」

「変もなにも明らかにおかしいんだよ!!」

「獄寺君?!!」
「オメーがんな風にウジウジしてると俺も10代目も調子でねーんだよ!!」
わざとらしい山本の笑いに獄寺はついに頭の中で何かが切れてしまった。
「しかも何だそのふぬけた面は?!言うほどのことでもねぇだぁ?ふざけてんじゃねぇぞ!!」
立ち上がり、とっさに山本の胸ぐらを両手で掴んで己の顔に寄せる。パック牛乳がトントンと音を立てて山本の手から抜け落ち床に転がった。山本の情けなく歪んだ顔がぐっと近づく。こうでもしていなければ山本を殴ってしまいそうだった。どうしようもなくて、ただただそこにあった制服の襟に手を伸ばしたのだ。
「獄寺君!止めなよ!!止めて!!」
「いいえ、10代目!俺はコイツの根性叩き直してやるまで放しません!!」
ツナが止めても止めないということは、獄寺の意志はそれほどまでに固いということだ。
獄寺自身、何故こうまでして怒り狂っているのか分からない。
ただ…。あの何かを抑えるような山本の顔が嫌だったのだ。
そんな顔、見たくない。
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