捧げ物・宝物

□哉斗様へ
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夜、僕は仕事を片付けるため、9時近くまで残っていた。
その仕事も終わり、
とうとう夜の9時になった。


「こんばんは、恭弥。」
「まあ、時間ぴったりなのはいつものことだけど、今日は何をするんだい?」
「そうですねー…。少なくとも退屈させるようなことはしませんよ。」
「ふーん。そこまでいうなら信じてあげるよ。退屈しないって。」
「くす、ありがとうございます。」


10分後。
僕たちは長い坂を登っていた。


「ねぇ、どこいくのさ。」


もう並中を出てから10分。
未だにだらだらと長い坂を登り続けている。
どこにいくか分からないのに歩き続けるのもいい加減疲れてきていた。


「そうですねー…。恭弥が知ってる所ですね。
ほら見えてきましたよ。」
「え…」


そこに現れたのは並盛公園だった。並盛公園は坂をかなり登ったところにあり、ここから並盛が一望出来る場所。この時間になると静かなものだ。

「ここが退屈させない場所?」
「ええ。そうです。ほら、見てくださいよ。綺麗な夜景でしょう?」


そう言われ下に視線を落とす。
そこから見える夜の並盛。
沢山の光で包まれる家や店、人のいない静けさ、その全てが綺麗だと感じてしまった。


「っ……」
「綺麗でしょう?僕もここで町を眺めるのが好きでしてね。」
「………なんだ。これを見せるだけだったの。」
「違いますよっっ!!用意があると言ったでしょうっ」
「そういえば、用意があるって言ってたね。で、なんなの?」
「くす、これですよ。」


パチンッ


「っっ!」


指を鳴らした瞬間にそれは現れた。
空から舞い降りるそれは小さく白い、でもとても綺麗なもの。

それは雪だった。


「どうです?最近暑かったでしょう。だから雪、降らしてみたんです。」
「雪……」


それはあまりにも儚くて、僕が触ったら壊れてしまいそうで…


「ほら、恭弥触ってみてくださいっ。出来るだけ本物に近い雪にしたんですよっ」
「ふーん…」


そっと触れてみる。
数々の雪は僕の手の中に落ちてはすぐ解けてなくなった。
それがどうしても愛しくて、自分はこんなにも雪が好きだったんだと自分で驚いた。


「ありがと…骸。」
「はっ?」
「何。」
「いや、ありがとうと言われるとは思わなくて…」
「少し素直になってみただけだよ…」
「くす、ありがとうございます。喜んで頂けたなら、僕は幸せですよ。」


骸は僕が何を好きか知ってるようにいつも僕の前に好きなものを用意してくれるんだ。
だから…


「骸…」


ちゅ…


僕がやれる限りで骸が喜ぶことをしてあげよう…


「っ…恭弥っ!?」
「黙って…」


そう言って、握った君の手はとても冷たくて、お互い冷たい手を温めながらその雪をずっと眺めてた。

儚く落ちるその雪はまるで、桜のようだった。






fin.



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