連載
□第4章 後編
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ブィィィィーーン キッッ!
屋敷の角まで追ってきた万事屋は、バイクから降りるなり俺の胸ポケットの財布を掠めとった
「なにしやがる」
「ここ、入れとくからよ無くすなよ。落としたりすんじゃねえぞ」
ホラと財布を投げてバイクに戻った
俺は帰る道すがら、こいつはきっと追いかけてくると思っていた。がなんだその態度は!?てっきり謝ってくるのかと…
(さっきのキスといい、お前はなんでも突然なんだよ!!)
俺はもういろんなことで頭に血が昇っていた。門をくぐるとき背中に「1ケ月遅れのエイプリルフールだと思えよ」と万事屋の声が聞こえたが無視した
(この前おごってくれた時は優しかっただろ。早く機嫌直せよな)
屋敷に上がった俺はまっすぐ食堂に向かった(水を飲んで落ち着こう)
……目に入ったのは日めくりカレンダー
「クソッ!なにが『1ケ月遅れのエイプリルフールだ』」
カレンダーをむしってる時に気づいた
5日は俺の誕生日だ
特に用事もねえ
どうせなら万事屋と呑んでも悪くねえと思っていた
この前の飲み会で旨そうに食ってた顔が忘れられない。またあんな顔が見たかった
ファミレスでいやというほど甘いもん食ってたあいつは本当に楽しそうだった
(畜生、このままじゃ気まずいじゃねえか)
掌のカレンダーを握りつぶすと屑カゴに放り懐から財布を取り出した
どうせさっき撮った写真を入れたんだろう。瑠璃色に加工された8枚つづきの写真はシールになっていた
まともに見れるもんじゃなかった。自分のこんな狼狽してるとこを見るのは初めてだ
最後の一カット……
(まるで恋人同士じゃねえか///)
あの時は万事屋のことちゃんと見る余裕なんてなかったが、なんだこの色っぺぇ目つきは…
(あいつずっと黙ったままだったよな)
俺はあの時知らぬふりを決めこんだ。野郎とキスして反応してる男を俺はどうしたらよかったんだ
本気で俺のこと好きだとかいうのか
(駄目だわからねえ)
写真を見れば見るほど悔しい。騙れたことじゃなく…もっとちゃんとしたキスがしたかった
この前あいつと接触した時に切った唇を指でなぞった。傷はもうくっついていた
俺があいつを好きになってるのは間違いなさそうだ
結局、間抜けな顔した俺と小悪魔みたいな顔したあいつの写真は財布に戻した
端っこに書かれたきったねえ字と8つの数字に気づいたのはその時だ
『だましてごめんな、連絡まってる』
(携帯ぐらい持てよ)
暗記した8つの数字を携帯に登録しながら、眼がねと酢昆布娘がでたらどう説明すっかなんて考える俺だった
END
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