hand.


□猫のお仕事
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深夜2時の絡み合った路地裏。むき出しの刀を携えた男達が足早に駆けている。




「……しつこい…」



満月を背に屋根から顔をひょっこり出す。男達が去った後の路地を見つめ山崎はボソリと呟いた。

黒の忍装束を身に纏い絶賛任務中。ハァ、とまた1つ大きなため息をつくと伏せていた状態から立ち上がった。屋根の上から見下ろしていた路地にはもう先程の男達はいない。

伸びをして身体の緊張を解くと懐から紙を取り出して見た。ズラリと並べられた文字は人名。結託して攘夷をせんと名を連ねた者達だ。
それを盗みだした所までは良かったのだが、帰ろうと塀を乗り越えた先に野良犬がいるとは思いもしなかった。



「犬に吠えられてばれました。って言ったら俺殺されるよな…」

「そいつぁ情けねー話だな」



気配がなかった事に驚きながらも聞き覚えのある声に山崎は後ろを振り返った。



「よ、同業者。辛気臭ぇ面してんじゃねーか」

「うわ…服部全蔵、さん」

「"うわ"とは何だよ。つーか今フルネームで呼び捨てにしようとした?」



そこには紺の忍装束を身に纏い片手には薄い箱を持った服部が立っていた。



「同業者って俺ピザの宅配員じゃないんすけど」

「冷たい事言うなよ。何だお困りか?」

「命の危機ですね」



話していればまた下の騒がしさに身を低くする。覗いて見るとまだしつこく山崎を捜している様子だ。



「アレを何とかしなきゃいけないんですよ。何だシーフードピザか」

「ははーん、殺っちまうのが手っ取り早いがそれは無しってか?というか何勝手に開けてんの?」

「ハグッ─やっぱこっちとしては検挙したいんでね、ムシャムシャ」

「なるほどな、ってだから何勝手に食ってんだぁぁぁああ!!!!」



響いた怒声。隣でピザを食う山崎に怒鳴り声を上げたせいで男達が気付き、いたぞ!と騒ぎ出した。



「あーあ、見付かったよ。コレ誰のせいだ」

「…俺関係ないし。ピザ届けるし。」

「わかったわかった、ピザは俺に任せて逝って下さい」

「は!?だから俺関係な──っ!!」



ドン、何かの衝撃に押され服部が気付けば空の上。と思えば急降下。屋根の上では山崎がなおもピザを食べながら手を振っていた。



「ふぁんがってくだはーい(頑張って下さーい)」

「あの野郎ォォォオオ!!!」



服部が叫びながら光る刀の中へ消えて行ったのを見届け山崎はその場を離れた。手元に残った中身のない箱を捨て闇夜を舞う。



「お返しはボ●ビノールでいいよな」



指をペロリと舐め今頑張っているだろう先輩への礼を考える。どうせ逝ってはくれないだろうな、などと若干黒い事を含みながら山崎の姿は暗闇へと消えていった。



この日から毎朝山崎はクナイの雨によって起こされるようになったと言う。




fin.

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