hand.


□黒闇に馳せる
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闇が全てを包む夜の帳。
漆黒のそれは終をはたまた死を予兆させる。だが駆ける黒猫にとって己が身を隠すその様は一心同体と言えよう。闇に溶ける黒を身に纏い空気を割く。

それは"偶然"耳に入った。
夕刻、今晩開かれる宴会用にと酒を買いに行った時の事。本日屯所警固に当たっている隊士と浪人が路地裏で密談を交わしていた所に遭遇した。何故その道に入ったのか、監察方の勘がそうさせたのか。



「今晩、宴会の最中に屯所を爆破」



それだけ聞けば十分だ。音もなく降り立った山崎は浪人の踵骨腱を切り歩けなくさせ、隊士に詰め寄った。だが隊士は固く口を閉ざすばかりか刃を向けてきた。こいつは真面目な奴だったな、と思った山崎は躊躇する事無く刀で斬り捨てる。元同士と言えど敵と見なせば容赦はない。
紅い華が辺りに散らばり、それを浴びた浪人はひっと声を立てた。だがいくら足をばたつかせ様と腱が切れているため歩く所が立つことすら出来ない。



「アジトは?仲間は何人?」



溺れた蟻の様に騒ぐそいつに無表情のまま問う。混乱しきっている為か会話にならない。

(今晩…か、)

まだ手に持っていた酒の袋に目を向ける。先日まで続いた大捕り物のおかげで久々の宴会となっていた。楽しそうにはしゃぐ皆の顔が浮かぶ。仕方ない、と小さくため息をついた。



屋根裏から広間に入りこっそりと酒を置いてから自室に戻る。着ていた着物を脱ぎ漆黒の衣に腕を通せば自分の周りに流れる空気が変わるのがわかる。机上に置いた紙切れを横目に屋根裏から外へ出た。
先ほどの茜空から静かに闇が侵入していく様を見つめる。口布を引き上げ行くか、と呟くと一陣の風と共に山崎の姿は消えた。






───────……


「おい」

「げっ、」



縁側を歩いていれば正面からは副長様。何時も以上に眉間に皺を寄せ山崎を睨み付ける。



「何で宴会にいなかった」

「書き置き見ませんでした?頼まれてた酒買いに出てたんですよ、なかなか見付からなくてこんな時間になっちゃいました」



眉を下げ申し訳なさそうに笑う山崎。挙げた手には酒の入った袋を持っていた。それを見た土方は思い切り頭を殴る。



「いったぁぁぁ!!!!!何で殴るんですか!」

「もう宴会は終わった」

「はい?それが何か」

「俺は飲み足りない」

「…………」



酒が弱い土方が潰れるのは早い。本人が飲まんとしても沖田が飲ませるはずなのだが…今の土方はピンと背筋も伸び煙草を吸い眼光は鋭かった。何時も通りの彼だ。山崎は口元が緩むのを手の甲で少し隠し片手を持ち上げた。



「1杯いかがです?」

「あぁ、悪くないな」



ふ、と笑う土方に留めようとした緩みも締まらない。相当嬉しそうな顔をしているだろうな、と客観的に見る自分が言うが嬉しいのだから仕方ないだろう。


前を歩く土方の背を追い掛ける。


夜の帳。漆黒の闇には美しい三日月が輝いていた。




fin.

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