hand.
□突撃訪問者
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漆黒の髪と瞳。美しく闇夜を舞う姿は黒猫の様な艶やかさ。弧を描く唇に見惚れたならば最後、全てを奪われるであろう──…
「…─って事でおまんに会いに来たぜよ!」
「はーい、7時48分・器物破損及び不法侵入。また夜這いならぬ朝這いの容疑で現行犯逮捕しまーす」
静かな朝に突如響いたドォォオンという激しい爆音。それに何事かと目を覚ました山崎。起きようとすればそれは叶わず、変わりに自分の上に覆い被さるように乗る変質者がいた。
「彼と天井しか見えないっ」何処かの乙女な少女が言う場面はまさにこれか、と非常事態にも関わらず山崎はぼんやりと思った。
「いたたたたた!ちょ、もう少し優しく、」
「黙りやがれ。こちとら朝の貴重な睡眠時間奪われて苛々してんだよ。寝たの6時だぞ?まだ2時間も経ってねぇんだよ」
「全く夜中にナニをしちゅうがかププッ」
「仕事だコノヤロー」
顔の横にあった腕を掴み胸を押せば上下逆転。クナイで赤いコートと布団を縫いあわせその間に縄で縛り上げた。
小型飛行船が部屋に突き刺さり辺りはボロボロだ。襲撃かと駆け付けて来た隊士達もいたが最高に機嫌の悪い山崎の表情を見るなり任せましたと脱兎の如く立ち去って行った。
「わしは坂本辰馬言う者じゃき!」
「坂本辰馬ァ?快援隊の社長さんが何のご用件で?」
「お、わしの事知っちゅうがか!実は金時やヅラからおまんの話を聞いてのう、」
「俺の知り合いにそんな怪しい奴はいませんが」
「山崎夫妻の子供がいるゆうて飛んで来たきに!」
「人の話は無視か──って、は?」
机を挟んで座る有名な貿易会社の社長を名乗る男。確かにその顔に見覚えはあった。だがそこから発せられたのは意外過ぎる言葉。
「ありがとう、スマン、言いたい事ばっかで頭がいっぱいじゃ!」
アッハッハと笑ってはいるがどこか哀しいそれに胸が苦しくなった。そして山崎も謝らないで、と言う変わりに小さく笑った。
「それにしても母親にそっくりじゃのう!いや、目は父親譲りか?」
「そうなんですか?」
「もっと小さい子供のイメージしかなかったきに。大きくなって」
頭を豪快に撫でる大きな手。首が少し痛い。それ以上にこうして自分の親を知る人物に会えるのは嬉しかった。
「じゃあ行くか」
「え、どこにで─うおッ!ちょ、待った!!!」
がばっと勢い良く山崎を肩に担ぐ。軽々と持ち上げられた事に驚く間もなくその身は先程の小型飛行船へと投げ込まれた。
「歩ちゃんにも会いに行くぜよ!」
「待て!あんた居場所知ってんのか!?」
「ん?高杉の所じゃろ?任せるきに!」
「鬼兵隊と知ってて連れてく気か!!!」
「姉弟が会いに行くだけじゃ、問題ないぜよ」
先程のしんみりした空気とは一変、本当に楽しそうに笑う坂本。そんな事を話ながらも今は既に上空。小さくなる屯所に向かって謝る様に手を合わせた。
「帰ったら副長に殺される……」
「うっぷ、気持ち悪い…」
「やっぱ降ろせぇぇえ!!!」
山崎の叫び声は空の彼方に消えて行った。
fin.
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