hand.


□迷子と春風
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冬の寒さが消え暖かい春風吹く今日この頃。各地では桜や梅が咲き初め新入生を祝い迎えるムードが漂っていた。
そんな毎年の恒例行事。毎年長い校長の話。毎年行われるオリエンテーションと言う名の無理矢理仲良くなりなさいの会。コクリと頭を垂らす学生。



「─…それで、」



遠くからマイクの響く音が聞こえる此処に立つは胸に赤い花を飾った若者達。真新しい室内靴が白く輝く。



「ここは一体何処だ?」

「学校じゃき」

「ちっがーう!俺が言いたいのは今立つこの場が何処なんだってこと!!」

「ふ、愚問だな銀時。それが分かれば此処に立ち止まってなどいないさ」

「何かっこつけてんだようぜーんだよそしてヅラを取れ!」

「ヅラじゃな─
「騒ぐな。だいたいテメーが元凶じゃねーか」

「ゔ、」

「人の話を聞け貴様等ぁぁあ!!!」



響く声、右を見ても左を見ても続くのは長い廊下。ひたすら並ぶ教室。そんな場所に4人は立っていた。今日は新入生の説明会だったのだが、それに飽きた銀時が抜けると言い出したのが今の始まり。



「アッハッハ〜完全に迷子ぜよ!」

「迷子って言うなコノヤロー」



抜け出せばそこは知らない場所。高校・大学と隣接している大きな校舎、長い廊下に階段。これはもう走るしかないだろう。その結果揃って迷子。階段も上り下りを繰り返したため何階なのかすらわからないという有様。



「とりあえず外出て体育館に行けばいいんじゃねーのか?」

「いや、第3体育館は屋内だったぞ」

「何言ってんだ渡り廊下の先だろ」

「「「…………」」」



異なるそれぞれの記憶。方向音痴が揃えば迷子になるのは道理と言えよう。頑固さも相まってバチバチと3人の間に火花が飛び交う。

そんな折、一陣の風が吹き込む



「──…良い風じゃ」



廊下の窓を開けた坂本が言った。窓枠に手を掛け瞳を閉じ肌で感じる春風。温かく桜の香りを運ぶ。3人はその様子を見て瞳を合わせると微かに笑った。



「うぉ──!」



ヒラリ、ヒラリと舞う桜吹雪。足は自然と階段を上り屋上へと向かった。花弁が風に吹かれ彼らの元に春を届ける。



「美しいな」

「まっこと綺麗じゃき」

「桜饅頭」

「趣きのねぇ奴」



舞う桜に陽の光が反射し輝く。その眩しさに目を細めた。手を延ばせばそこに1枚の花弁がフワリと落ちる。ゆっくりと潰れない様包み胸に宛てた。

願うは彼らに幸せを。




fin.

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