その他短編

□リクつら
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「ふぅ」


読みかけの本にしおりを挟んでぱたん、と綴じる。


自室の前の縁側に腰を掛け月明かりだけで本を読む。

今年の夏の暑さのピークも過ぎ去り大分涼しくなったように感じるがそれでも暑いには変わりなく今日も寝苦しくて寝つけずにいた。
夏に弱い雪女の自分には尚更のことで。


本を横に置いて団扇でパタパタと扇ぐと涼しい風が吹いて暑さが少し和らいだ。



「まだ起きてたのか」


つらら、と後ろから心地よく馴染んだ声に呼ばれ振り返ると


「わ、若っ…!!」


月明かりに照らされ手には徳利と杯を持った若と目が合う。


「若こそこんな時間になにを…!」

「つららもっと声落とせ。皆が起きる。…夜の俺には今しか時間がないからな。それにこう暑いと眠れやしない。」


ぎしりぎしりと床を歩く音が鳴り若が私の隣へ腰をおろした。
杯を傾け一気に煽ると月明かりに照らされた着流しから見える喉元が動きなんとも言えぬ色香を放つ。



「ん、どうした?」


見惚れていると若が気付き優しげな微笑みをみせる。
それにまたドキリと胸が高鳴る。


「な、なな、なんでもございませんっ」


動揺を隠しきれず若に顔を見られないように顔を下へと思いきり反らした。

ククッと喉を鳴らすような笑いを抑えるような声がしちらりと視線を向けると若がこちらを見ながら愉しそうにまた杯を傾ける。



「お前こそ眠れずにこんな所で本を読んでいたのかい?」



隣に置いてあった本へと視線を移した若が問いかける。


「はい。部屋よりかは縁側の方が涼しいので…。この本私のおすすめなんですよ。」


よく見えるように表紙を若の目前へと持っていく。

若は徳利と杯を置いていよいよ興味を示したように本を触った。




「…あッ!!」


渡す瞬間に若の手が私の手に触れそのまま包み込んだ。


「どうした、つらら」


わざとしているのは一目でわかった。
私の反応を愉しむかのように口角を上げる。




本が音をたてて床に落ちた。











END

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