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□ある軍事司令官の訪問(紅花)
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その言葉も自信過剰ではないから嫌いだ。

この男の頭脳はこの国の宝と言ってもいいほどのものだった。

トーヤが王として君臨していた頃は、彼の右腕となり、国を支えていた男。

その手腕は確かに惜しいが、スレンが彼を助けたのにはそれ以外にも違う理由があった。

「……どうやら、それだけでもないようですが」

見透かすような言葉に、一人の女の顔がスレンの脳裏に過る。

一目見た時から、この女と決めた女だ。

自分好みの顔に体、武術の心得もあって、強い瞳に心奪われた。
どれをとっても自分にこそふさわしく生まれてきた女、だと思っていたのに、何故か彼女はスレンではなく底の知れない変態のノールを選んだ。

考えるだけで頭が痛くなりそうだ。

「……私達が話しているのが、大陸のナスラの言葉。貴方のその刺青からして、高位の軍人。そして、新しい方の刺青は王を示している。

貴方は、思っていた以上に私に親切だ。怪我をした私に必要な手当てし、匿っているように見える。私をここに入れているのは幽閉する目的、ではなく、周囲から遮断して保護するのが目的なのでしょう」

動揺はしなかったはずだ、しかし、彼の瞳に確信したような妖しい光が宿る。

「……生かしておくのは、私から何かを得るため。しかも、それは拷問で手に入るものではない。そのものの場所はわかっている。でも、どうしても私でなければ手に入らない」

「まったく、嫌味な男だ」

スレンがため息をつき、

「やはり、殺してやろうか」

「私は自分のものを取られるのは嫌いなんです。死後の世界に持って行きますから安心して下さい」

と彼は不機嫌そうに顔をしかめた。

話していると余りにもいつも通りの調子だから彼が記憶を失っている事を忘れてしまいそうだ。
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