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□暁月夜の夢(S.Y.K)
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――楊漸、空がきれいだぞ

大聖がそう言うから、空を見上げていた。澄みきる様な目にまぶしい青。これが綺麗な空か、と私の乏しい心は教えられた。

雲も、風も、木も、花も、湖も、川も、あの頃は綺麗だと思えたのに、愛しいと思えたのに。今とはやっぱり違う。

今でも天界が愛おしいと言う気持ちは消えてはいない。

嘘もない。

ただこの時の心が大聖を失って抜け殻のようなっても、“天界が愛しい”と思った部分だけ僅かに残っているようだった。

「あれ? 楊漸様」

声をかけられ振り返れば、

「金蝉子……」

釈迦如来の二番弟子・金蝉子が驚いたように立っていた。驚くのは私の方だろう。何故、金蝉子がいるのだろう。彼女は、500年前に死んだはず、ではないか。

「もしかして……、あの、迷子ですか?」

と彼女はすまなさそうに言う。

「あなたこそ、どうしてここへ」

焦って、私は尋ねた。
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