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□楽園の紅い花(紅花)
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『楽園の紅い花』


――出会った時から、ずっとお前のことが、好きだった。


 父を亡くして、母を敵国に攫われて、一人ぼっちになったお前は、義妹になった。

栗色の髪も、病をして金色になった髪も同じぐらい愛していた。大きく愛らしい目も、鼻も、口も、頬も……お前を形作るものすべてが、欲しかった。
 
王と言う重荷さえ、お前が手に入るのなら受け入れることもできた。月並みだが、幸せにすると誓い、ずっと大切にしてきた、愛しい婚約者。

 だけれどもずっと心待ちにしていた日の直前で、お前はナスラに攫われた。ずっとお前を救いだすことだけを望み、今すぐにでも隣国に乗り込んで奪い返したいと思いながら、幾夜も拳を握りしめた。

 生きていてくれてばいい。そう願っていたのに、それではこの気持は満たされることはなかった。

欲張りな想いの代償だろうか、金色の瞳はもう誰も写してはいない。敵であるはずのナスラ王だけを求めて、虚空を彷徨い続ける。

目の前で憎いナスラ王を切り殺した時、彼女の瞳の光が失われた。それでも祖国のルスで穏やかな日々を過ごせば、きっとその光も戻ると信じていた。

「……トーヤは、どこ?」

 擦れた声が耳に届いた。
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