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□ある軍事司令官の訪問(紅花)
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スレンは目の前の独房で一人座す男を見て、ため息をついた。
女と見間違うほど美しいかんばせに、金糸の髪、瞳は湖をたてた澄んだ蒼。
額に巻かれた包帯が痛々しいが、いつもの通り陰険そうな表情の所為で哀れと思う気持ちは起きない。
彼はじっとスレンの様子を伺うように見つめ、薄い唇に指先を当てている。
「あぁ、なるほど」
何がなるほど、だかは知らないが、彼は瞳を細めて小さく微笑んだ。
「どうかなされましたか?」
といつもの感情のない声で言われ、スレンは拍子抜けしてしまう。
「記憶喪失じゃなかったのか、ノール」
「……えぇ、私には記憶がありません。私の名前は、ノールと言うのですね」
彼は噛み締めるように呟き、
「どうやら、貴方は敵ではない」
「毎日、食事の世話を寄越してやっているのにどうしてそうなるんだよ」
と突っ込むと、
「私には敵が多いんです。見極めないと命が幾つあっても足りません」
「やっぱり見殺しにしてやればよかったぜ」
と毒づけば、ノールはわざとらしく肩を竦めた。
「私の様な天才をみすみす殺すのは惜しいことですよ」