novel『復活』vol.3短編N

□うたた寝姫
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仕事が一段落ついた。
「やれやれ…」

慣れないデスクワークにコキコキと肩や首が鳴る。

企画書だの何だのの書面作成やら(一応組織に所属している)、新規の調合法を考案しなきゃいけないやら、意外と面倒な作業が多い。

隼人は重い腰を上げて、仕事部屋を片づけていた。

ここは自分専用の一室。
ツナさえも入室禁止にしてある。

他人の手が入れば、どこに何があるか分からなくなってしまうから。
それと、多少だが火薬や劇薬類がある。

万が一も起こらない様に、との隼人なりの配慮でもある。


仕事のヤマも片づき。
これから少しは休日が取れそうで。

隼人はニンマリ笑う。


外は、春の暖かな陽射しで満ち満ちている。
花見にはまだ早いが、ツナを誘って散歩でもしようかな。

そう思い立った隼人はいそいそと仕事部屋を後にした。





「ツーナー?」

台所にも居ない。

「ツーナー?」

二階にも居ない。

「ツナー?」

庭にも、玄関付近にもいない。

もちろんトイレや風呂場も探した。
物置や、子供部屋。

(後、残るは…)

リビング。


「ツ…」

名前を呼びかけて、止めた。

中庭へと続くおっきな窓は開け放たれて、レースのカーテンが微風を含んでそよいでいる。

その下で、ツナは洗濯物に埋もれる様に眠っていた。

陽射しをたっぷり浴びたバスタオルを抱きながら。

隼人は口の端に笑みを浮かべながら、足音をたてないようにそっと近づいた。


安らかな寝息とシアワセそうな寝顔。


頬にかかるツナの飴色の髪をすくってみる。

熟睡してるのだろう。反応はない。

(毎日頑張ってくれてるもんなぁ)


子供3人に時間に不規則な自分に。
朝から晩まで。

家事に育児に、近所付き合い…

改めて、主婦は気の休まる時間なんてない様に思えた。


この細腕のどこにそんな体力があるのだろう?
この細身にどれだけの負担が掛かっているだろう?

隼人は眠るツナの頬に唇を這わした。

「いつもありがとうな。ツナ」


本当ならギュッと抱き締めたい場面なのだが。
起こすのは可哀相だし。
何だか勿体ない。
そう思えて我慢する。

(ま、散歩は明日でもいっか)

ツナの傍らでゴロンと横になる。

起こさない様に慎重に慎重にツナの項(うなじ)に顔を埋めた。

(愛してる…愛してる…ツナ)


どうかこの優しい時間が一生守れます様に…
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