中編

□上
1ページ/1ページ












 私は憧れの大好きなカカシさんとツーマンセルで任務に当たっていた。

アジトに潜入して敵を殲滅した所までは良かったのだが、狭い研究室での戦闘で壊れたガス管から噴射された怪しい煙をカカシさんが浴びてしまう。

私は廊下で戦闘をしていたので大丈夫だったが、苦しそうに胸を押さえたカカシさんが煙の中に消えていくのが見えて心臓が嫌な音を立てた。

早く助けなければと気持ちが焦る。

でも迂闊に近づけない…

得体の知れないモノほど怖いものはない。

私は起爆札の付いたクナイを研究室の奥の天井に飛ばして壁を破壊した。

空が見えたことを確認すると風遁で煙を飛散させる。

視界がクリアになっていくと部屋の真ん中に忍服に埋もれた少年がちまっと座っていた。

うそ、あれってもしかして…

銀の髪に少し垂れた目、口元を覆う布。


「えっ……カ、カシ…さん?」


 近づいて目線を合わす為に跪く。


「ヤバい事になったね、どーも。」


 見たところ外傷は無く、普通に会話もできているので意識障害も無い。

ただ、身体が子供になっている。

見たところ三、四歳くらいだろうか。


「カカシさんですよね?」


 不安になって一応確認してみた。


「あぁ、はたけカカシで間違いないよ。」


 喋り方もカカシさんそのもので声だけが僅かに高い。


「どこか怪我は無いですか?」

「体が縮んでる以外は大丈夫みたい。」

「そう、ですか。」


 ひとまずホッとした。

それにしてもこの子があのカカシさん…

元の姿よりも黒目が大きくて、袖は手が出ずにダラリと下がり、上着の裾から小さな素足が見えている。

すんごい可愛いんですけど!!

抱きしめたい衝動をグッと我慢する。


「とりあえず、後は処理班に任せて火影様に報告。この身体の事は調べてみないとわからないだろうからな。」


 淡々と話すカカシさんに随分と冷静なんだなと感心した。

私なら大声の一つや二つ上げそうだ。

カカシさんは上着だけの状態で歩き出すと、机の足にゴチンと額をぶつけた。

…案外そうでも無さそう。

かなり動揺している様でカカシさんは打った頭を抱えて蹲る。


「大丈夫ですか!?」


 私は赤くなった額に医療忍術を施す。

すぐに赤みは消えた。


「すまない。」

「仕方ないですよこんな状況ですし、とりあえず戻りましょう!」


 私はそう言ってチラリとカカシさんを見下ろす。

流石にこの姿では目立つし動きづらいだろう。


「カカシさん。」


 私は身を屈めて両手を広げる。


「え、何この手……」

「抱っこですよ!」

「だっ!?」


 カカシさんの顔がみるみる赤くなる。

あ、可愛い。


「その姿だと目立ちますし、とりあえず里に戻るまでです。」


 しばらく悩んでいたようだが、観念したのか遠慮がちに私の方に近づいて小さい手で服をギュッと掴んだ。

なんだこの可愛い生き物は!

言ったらカカシさんに殺されそうだから言わないけど。

私はカカシさんを抱き上げると、上からマントを被る。

頭だけが見える様にした。


「少し窮屈ですけど、我慢してくださいね。」


 そう言いながら小さい体を包む様に抱き締めた。

コクリと頷くカカシさんは耳まで赤くなっている。

抱っこってそんなに恥ずかしいものかな?

私は床に落ちたカカシさんの服と額当てを拾うと施設の外へ出て、引継ぎの処理班の班長に事情を説明し里へ向かった。











 * * *



「ご苦労、早かっ……」


 執務室へ入り私の胸元を見るなり綱手様の動きがピタリと止まった。


「そ、その子……まさか。」


 目を真ん丸と見開いて、綱手様は言い淀む。


「はい。そのまさかです。」


 さすが火影様一瞬で誰かわかるなんて。


「……カカシに隠し子がいたとは、驚きだよ。」

「ち、違います!この子はカカシさん本人です!!」


 疑いの目を向けられ、部屋の空気が冷たくなった気がした。


「本当ですよ!」


 私は尚も信じられないと言っている眼差しに焦って、しっかり見てもらおうと抱えていたカカシさんをゆっくりと下ろした。

カカシさんは服の裾を引き摺って一歩前に出る。

ちょこんと佇む姿は完全に子どもだ。


「綱手様。」

「……カカシなのか?」

「はい、はたけカカシです。」


 子どもとは思えない程の冷静な声に綱手様は眉間の皺を深める。

カカシさんは閉じていた左目を開くと綱手様を見上げた。

そのまましばらくジーっと見つめ合った後、盛大な溜息を吐いた。


「写輪眼を持っているという事はカカシなんだろう。」


 信用してもらえたようで一安心する。


「事の経緯を説明いたします。」


 私は今現在わかっていることを報告した。


「……そうか。早急に元に戻す方法を探さねばならんな。」


 深刻な表情の綱手様に私たちはコクリと頷く。


「研究室に残された資料を調べてみるが、今までにない事例だ……よってこの件は極秘で取り扱う。」

「…分かりました。」

「里の戦力であるカカシがこの様な状態だと他里に知られるのは避けたい。ななし、カカシの世話は当面の間お前に任せる、いいな。」

「はっ!」


 私は少し頭を下げて了承した。


「一先ず、木ノ葉病院へ行って身体検査をするように。私からも連絡はしておく。」

「了解しました。」


 それからこれからの事を少し話して私たちは執務室を出た。

扉の前でどちらともなく視線を合わせる。


「すまん、面倒ごとに巻き込んで。」

「気にしないでください。(可愛い)カカシさんと一緒に居られるのが嬉しいです。」

「ななしお前……」


 私は屈むとカカシさんの髪を優しく撫でた。


「大丈夫、すぐに元の身体に戻りますよ!折角子供の姿なんですからのんびり過ごしましょ?」


 少しでも不安を取り除こうと笑いかけると、カカシさんはフッと表情を緩めた。


「とりあえず検査ですね!」

「あぁ。」

「その服だと歩きづらくないですか?抱っこしますよ。」


 半ば強制的に抱き上げると、腕をお尻の下に回す。


「ちょっと、恥ずかしいんだけと。」

「服を買うまでの我慢です!」


 ごめんなさいカカシさん。

私が抱っこしたいだけなんです。


「落ちない様に掴まっていてくださいね。」


 そう言ってニコリと笑いかけると、カカシさんは渋々肩に掴まって頷いてくれた。








 * * *



 木ノ葉病院へ着くとすぐに検査が始まった。

小一時間かかるとのことで私は手持ち無沙汰になり、先生にカカシさんを任せて商店街へ日用品と子供用の服を調達しに出る。

病院へ戻ると丁度検査が終わったところだった。


「異常なしだって。」

「良かったです。」


 カカシさんは子供用の入院着で椅子に座り、眠そうにしている。

子どもの姿だとお昼寝とか必要なのかな?

そんなことを考えていると、部屋に診察してくれた先生が入ってきたので一礼する。


「特に異常は見当たりませんでしたよ。いやー火影様のお知り合いという事で連絡が来ていましたが、この子あの有名なはたけさんそっくりですね。」


 うん、本人だからね。

私は苦笑いを浮かべながら、そうですよねと適当に相槌をうつ。


「じゃあスケア君、検査よく頑張りました。もう帰って大丈夫だからね。」


 先生は眩しいくらいの笑顔を向けると部屋から出ていった。


「……スケアくんって?」

「偽名だよ。さすがにカカシとは名乗れないからね。」


 そりゃそうか。

私は納得すると椅子に座ったカカシさんの前で膝を折る。


「じゃあスケアくん、これに着替えてお家に帰ろうね。」


 買ったばかりの服が入った紙袋を手渡す。


「ちょっと、子ども扱いしないでよ。言っとくけど中身は大人のままだからね。」

「そうでした。」


 ブスッとした表情のカカシさんを見ながら、私はあははと笑う。

紙袋を持ってカーテンの奥に消えたカカシさんを確認すると、これからどうするか考える。

カカシさんが子どもだとバレない様にしないといけない。

と、言う事は必然的にカカシさんは自分の家に帰れない。

そこのところを火影様に確認していなかったと後悔した。

私の家で一緒に生活するのは流石に嫌だろうな……どうしよう。

 シャッと音がしてカーテンの奥からカカシさんが出てきた。

黒のTシャツにグレーのハーフパンツ、そして白のマスク。

サイズもピッタリだ。


「わざわざ調達してくれてありがとう。ななしには頭が上がらないよ。」

「全然いいんですよ。抱っこできなくなったのが惜しいですが。」


 ふざけてそんなことを言うとカカシさんはそっぽを向いて、たまにならいいよ抱っこさせてあげても、と呟いた。

か、可愛いんですけど!

なにこの子、天使?

私は両手で緩む口元を抑えながら感極まって震えた。













 * * *



 木ノ葉病院を出ると外は夕焼け色に染まっていた。


「スケアくん、相談なんだけど……何かわかるまで私の家で一緒に生活するって言うのはダメかな?」

「ダメかなって……それはこっちの台詞なんだけど。」


 驚いたように見上げてくるカカシさんに、パチパチと瞬きを送る。


「私は全然、むしろその方が助かるって言うか、効率がいいかなと。」


 体が元に戻るまでは常に共に行動しないといけない。

なのでその方が私的に動きやすくて有難い。


「ななしがいいなら、オレは文句言える立場じゃないしね。」


 少し俯いたカカシさんの睫毛が顔に影を落とす。

責任を感じているんだろう。


「ふふっじゃあ決まり!今日は一緒に夕飯を作ろう。」


 そう言って手を握ると驚いたようにカカシさんが顔を上げる。


「……こうして帰ってもいいですか?」


 少し屈んで小声で聞くと、カカシさんは視線を逸らして小さい手で握り返してくれた。

周りから見れば親子に見えるだろうか。

私たちは繋がった影を見ながらゆっくりと家へ向かった。





→「」へ

.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ