短編
□素直に
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私と冬獅郎は幼馴染。
家が近くてよく一緒に遊んでいた。
冬獅郎は小さくて可愛い、弟的存在だった。
「ななし!」
「どうしたの冬獅郎?」
呼ばれて振り向くと、腕を組み眉間にしわを寄せた冬獅郎が立っていた。
「ななし…俺と結婚しろ!」
「えっ?」
耳を疑うような大発言。
「だーかーら。俺のお嫁さんになってくれ。」
「よ、嫁!?困るよそんな急に…」
冗談かと思ったが冬獅郎の目は真剣で、姉弟のような感覚で一緒に暮らしてきたのだから、当然そんな気持ちもなくて正直困惑してしまった。
冬獅郎は俯き、傷つけてしまったのかと今更だが焦りだす私。
「冬獅郎あの…」
「惚れさせる。」
「へ?」
またしても予期せぬ言葉に、間の抜けた声が漏れてしまった。
「ななしに認められるような男になるよ。」
翡翠色の綺麗な瞳に見つめられ不覚にもドキッとしてしまい、ただただ呆然と立ち尽くしてしまった。
そんな会話も日を追うごとに記憶は薄れ、そして何年もの月日が経ち、冬獅郎は十番隊の隊長に私はその下で三席になった。
ミーン ミン ミン ミン
夏の穏やかな昼下がり...
蝉の鳴き声が嫌なほど響いている。
空は真っ青、太陽の光がジリジリと照りつけてくる。
汗が頬をつたい地面へと落ちた。
今私は屋根の上にいる。
そう、ある人物から隠れているのだ。
「ふぅ…もう通ったかな?」
「おい、何してんだ?」
恐る恐る後ろを振り返ると、そこには冬獅郎が座っていた。
「キャー!!」
「うるせーなぁ。」
冬獅郎は手で耳を押さえ迷惑そうに目を細める。
「それに、さっきからこの距離でいるのに気づかねぇなんて…それでも三席か?」
馬鹿にする様に笑う。
隊長が気配消してるのに気づけるわけないでしょ!
「なによ、気づかなくて悪かったわね。」
これでもかと嫌味ったらしく睨みつけると、ふっと少し緩まった大切な人を見るかのような表情に、心拍数が上がっていくのがわかった。
隊長になってからというもの、前にも増して笑顔がなくなった冬獅郎が私に見せる特別な顔。
そう、幼馴染に向けるものだ。
だけど私はどんどんかっこよくなる彼に惹かれている。
もう弟なんて思えなくなっていて、この感情をどうしたらいいのかわからなくなっていた。
「もう!!からかうのはやめてください日番谷隊長!」
遊ばれたくなくて必死に抗議する。
冬獅郎はななしの反応を面白そうに聞いていたが、スッと近づき唇に人差し指を当てた。
「冬獅郎でいい。」
「…」
冬獅郎の驚きの行動に一瞬フリーズしてしまったが、気づいた近さと真剣な表情にみるみる顔が赤くなる。
素早く距離をとり「呼べるわけないでしょ!」と一喝すると、屋根の上から一気に飛び降りて隊舎へと向かった。
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