短編

□零れ桜
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「あ、桜の花びら!」






窓から入り込んだ花びらは銀色の髪に留まった。













































隊舎ですれ違う人たちは皆、そわそわと足どり早く通り過ぎて行く。






廊下の端ではコソコソと密談が交わされ、何とも言えないウキウキとした空気が流れていた。













「平和だなぁ〜」



十番隊三席名無しななしはポツリと独り言を残しそそくさとその場を後にした。
































”本日17時より花見会を行う”と言う総隊長の何気ない思いつきで、瀞霊廷中の全隊員たちが花見の準備を刻々と進めている。





私はと言うと、いつも通り大量の書類に追われていた。



理由は説明するまでも無く副隊長のせいであって、自分の分プラス副隊長の分を毎日こなしている。



特に花見とあってはいつも以上の書類が回ってくる。







「なんで三席になっちゃったんだろ…」



嬉しくも悲しい台詞に苦笑した。










「うぅ前見えない。」




身の丈程ある高さの書類を手に呟いた。












「あらななしじゃない!」



聞き慣れた声に振り向く。





「副隊長。」



「どうしたの、その書類?」






いや貴方のせいでしょ…とは言えず、あっけらかんと聞いてくる副隊長に少なからずイラッとする。






「これは副隊長のぶ」


「私、お酒の調達でとぉーっても忙しくって!」




さ、遮られた!


しかも満面の笑みで!!





「ホント、やんなっちゃうわよねぇ〜」



ここは絶対負けられない。


折れたらこの書類100%私がすることになる。





「あの、副隊長。」






「ん、なぁに?」





「これ、副隊長のぶ」


「あらヤダもうこんな時間?ごめん、私行かないと!」





「あ!ちょっと!」






「頑張ってねななし!!あ、花見ちゃんときなさいよー!!」






「ふくたいちょー!!」







乱菊は手を振り(逃げて)行ってしまった。








ガグリッ



ななしは豪快に平伏した。


もちろん心の中で。



そこそこ重量のある書類のせいで下手に動けない。




「くそー逃げられたぁ。」












































ほんとにあの人は!




あれでも副隊長ですか??




私は泣きたいよ。







ブルーな気持ちでトボトボ廊下を歩く。





落ち込んでも仕方ない。




さっさと終わらせて私もお花見参戦しよ!









「よし!」







そう気合を入れたと同時に書類の天辺の数枚が風で無情にも滑り落ちた。









「あ…」






この状況どうしろと?





足で取れとでも言うんですか?







落ちた一枚を眼力でも使うかのように見つめるななし。









ジ―――――ッ






泣いてもいいかな?






素直に諦めかけたその時。











一枚の書類が浮かび上がった。











「日番谷隊長!!」





眼力が使えるわけも無く、隊長が拾い上げていた。









「なんて顔してんだ。」





隊長はそういいながら残りの書類も拾い上げると、流れる様に私から書類を奪い取った。




あの顔を見られたことの恥ずかしさと隊長の行動に束の間固まる。







「た、隊長一人でも大丈夫です!」





「そこまでだ。」








日番谷はそう言うとすぐに歩き出した。







前を歩く十と書かれた隊首羽織に背筋が伸びる。





ほんと優しいな日番谷隊長は…



ななしは微かに頬を緩ませた。
















「隊長。」



「なんだ?」



「さっきの顔忘れてください。」





「…わかった。」




「なんですかその間は。」




「なんでもない。」









後ろからでも笑ったのがわかった。




隊長の笑顔を見ると胸の辺りがほっこりする。




隊長の隣はいつも温かい。




でも時々胸が苦しくなる。





必要とされたい…あなたに。




































「ありがとうございました!」




「あぁ気にするな。」





ななしの机の上&周りにはそれ以上の書類。







見ているだけで眩暈が…






「名無し。」




「はい?」







「松本の分は置いとけ。」






「え?」








日番谷は窓の方へ真っ直ぐ足を進める。









いいのだろうかと背中を見つめていると、日番谷はゆっくりと口を開いた。












「花見…一緒に回らないか?」







「え…」





思いもよらない言葉にドキッと脈打った。











窓から差し込む太陽の光に照らされ、振り向きざまに言う隊長の銀色の髪がキラキラと輝く。











「はい、喜んで!!」







返事を聞いて微笑んだ隊長は、後で呼びに来ると横を通り部屋を出て行った。
















夢?





現実?





信じられなくて自身の頬を引っ張る。







「痛い…」







どうしよう嬉しすぎる!!





隊長かっこよすぎてツライ。






ななしは気分上場で自分の分の書類に手をかけた。







あぁ隊長の笑顔…尊いな!







心の中でそう思いながら、ななしは鼻歌を歌い一枚一枚テンポよく書類を片していった。















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